第22話:人騒がせな女。

「へえ・・・この子・・・」

「忠彦が好みそうな子だわ」


玲子れいこ莉子りこを品定めするように言った。


「あ、あの・・・忠彦?」

「この方は?」


「どうも・・・私、有栖川 玲子ありすがわ れいこ

「忠彦の彼女・・・」


「おい、いい加減なこと言うな・・・彼女が誤解するだろ」


「か?・・・彼女・・・って?」


「忠彦・・・どう言うこと?、どうなってるの?」

「お付き合いしてる人なんていないって言ったじゃない?」


「いないよ・・・嘘じゃないって・・・玲子とはたしかに昔付き合ってたこと

あったけど・・・もうとっくに別れたんだ 」

「昔のことだよ」

「こいつは僕を捨てて兄貴に走った女だよ・・・兄貴の後ろ盾で自分の店を

持ちたいからって勝手にフランスへ行った女なんだ・・・ 」

「もう恋人でもなんでもないんだ」


「でも、そうだとしても忠彦を訪ねて来てるじゃない?」


「あなたに忠彦は渡さないわよ」

「こんな小娘に・・・」

「経済的に見ても私のほうがあなたより上ね」


「私、帰ります・・・お邪魔しました」


「莉子・・・待って、誤解だって・・・」


「私・・・よく分からない・・・ごめん、とにかく帰る・・・」

「さよなら」


そう言って莉子は忠彦のマンションを飛び出していった。


「お前、いいかげんにしろよ、彼女帰っちゃったじゃないか」

「お前が帰れ!!、もう二度と来るな・・・」


忠彦は玲子を放ったまま、莉子の後を追った。

莉子を追って外に出ると、莉子はまさにレブルで帰ろうとしてるところだった。


「莉子・・・待って・・・頼むから待ってよ」

「あいつの言ったことは、全部でたらめだから、もうとっくに終わったことだから」


莉子は首を横に振った・・・。

あまりの情けなさに涙があふれ出た。

フルフェイスのせいで莉子の涙は忠彦には見えなかった。


「莉子・・・僕を信じてくれないか?」


「信じてる・・・信じてるよ・・・でも今日は黙って私を帰して・・・お願い 」


「莉子・・・」


「ひとりになって考えたいの・・・」


「おやすみ・・・」


莉子はそう言うと、引き止めようとする忠彦を無視して、けんもほろろにレブルに乗って帰って言った。


あんな感情的になった状態で無事に家にたどり着けるのか忠彦は心配だった。

明日、なんとしても莉子の誤解を解かないと・・・。

走り去った莉子を見送った忠彦はマンションに帰ると、玲子の姿はなかった。


そしてテーブルの上に書き置きがあった。


《ごめんなさい・・・もう二度と来ないから、お幸せに、玲子》


「まったく人騒がせで迷惑な女だよ・・・」


忠彦にもうその気がない以上、玲子とのヨリが戻るはずはなかった。

その夜、忠彦は一睡もできないまま朝を迎えた。

それは莉子も同じだった。


To be continued.

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