第19話:美咲の剣幕。

「莉子?」


「あんた、この子を騙してたでしょ」


「なに言ってるんですか、美咲さん」

「どうしたんです、ふたりそろって」

「莉子なんで泣いてるの」


「しらばっくれて・・・」

「あんた、あんた奥さんも子供もいるって・・知ってるのよ」

「あんた、よくも莉子をもて遊んでくれたわね」

「って、いうかこれって不倫じゃないの」


「ちょっと待ってください」

「なんのことですか?」

「莉子、これどうなってるの?」


莉子は泣きじゃくりながら首を横に振るばかりだった。


「まだ、しらばっくれるつもりね」

「往生際が悪い」

「こっちにはちゃんと証拠があるの」


そう言って美咲は持ってきた書類を忠彦に渡した。


「そこに全部書いてあるでしょ!!」


忠彦はしばらく書類内容を読んでいた。

そして急に笑い出した。


「何、笑ってるのよ」


「君たち、ちゃんと僕の名前確かめた?」

「よく見て・・・名前のところ」


「忠彦じゃなくて、忠博になってるんだけど・・・」


「え?・・・忠博?・・・うそ・・・まじ」

「あ、本当だ」


「勘違いもいいとこだよ」

「たしかに僕の兄の名前は忠博、奥さんもいるし子供もふたりこの書類自体は

間違ってない」

「さて・・・誰が勘違いしたのかな」


たしかに書類の宛名は「芹沢忠博」になっていた。


「うそ・・勘違い?・・・忠博って・・・」

「私ここ、ちゃんと見てなかった・・・」

「ごめんねさい、私の早とちり・・・」

「ほんとにごめんなさい」

「莉子ごめん」


莉子はまだ何が間違ってたのか把握できないでいた。


「名前の読み違いだった・・・莉子、ごめんね」

「どうしよう・・・」


「え?何が違うの?・・・」


「てっきり忠彦さんだと思ってたら、奥さんと子供がいたのは 忠彦さんのお兄さんの忠博さんだったってこと」


「うそ・・・ほんと?」

「それほんと・・・んもう、・・・でもよかった忠彦じゃなくて」


「言っておきますけど、僕は正真正銘独身ですよ」

「ちゃんと見もしないで・・・人を犯罪者みたいに・・・」

「これって名誉毀損だよ」


忠彦は笑いながらそう言った。


「ごめんなさい」

「莉子、許してね・・・私のせいだ」


「もう・・・私・・・疲れちゃった・・・」


莉子はまた泣き出した。


「莉子、誤解だよ・・・大丈夫だから・・・」


忠彦は泣きじゃくる莉子を介抱しながらそう言った。


「これはたぶん興信所は確かな仕事をしてるんだと思うけど、 どこかで言い間違いか聞き間違いが起きたんだね」

「最初っから、僕のことよく思ってなかったから、そういう先入観だから

こういうことが起こるんだよ」

「もっとも、そう思わせた僕にも責任はあるんだけどね」


「美咲さん、莉子は今夜一晩ここに泊めるから・・・」

「悪いけど美咲さんは帰ってくれる?・・・ごめんね」


「お騒がせしました・・・私、退散します・・・おやすみなさい」

「莉子、大丈夫?」

「全部、ほんとじゃなくてよかったね」

「ごめんね、怒ってない?・・・ほんとにごめん」

「あんた、今夜はここに泊めてもらいなさい」

「私、帰るから」

「大丈夫ね・・・」


美咲を責める気もなくて・・・莉子はうなずいた。


「じゃ~この子のことよろしくお願いします」


そう言って美咲はすごすごと帰って行った。

莉子はこれがほんとのことじゃないと知ってホッとした。


まったく人騒がせな美咲・・・って言うかちゃんと名前を確かめなかった

自分も悪いと莉子は反省した。


To be continued.

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