第16話:プレゼント。

結局、何もなく日曜の朝を迎えた。

莉子は早くに目覚めたが、起きる気がしなくて、そのまま二度寝してしまった。

起きたのは、お昼前だった。


きっと毎日こんなことをしてたら、だらしない人になってしまいそ うって

莉子は思った。

忠彦は莉子が起こすまで寝ていた。


お昼は莉子がカルボナーラを作った。

忙しく飛び回って神経をすり減らしてる忠彦も莉子といると優しい気持ちで

いられた。

莉子だけが忠彦の孤独感とストレスを癒せる存在だった。

何もしなくても、莉子がそばにいてくれるだけで忠彦の心は癒された。


夕方、忠彦は莉子を連れて 忠彦のマンションから歩いてすぐの「フェリシア」 と

いうイタリアンレストランに夕食を食べにでかけた。

いつもは車かバイクだったが

たまにはふたりで歩くのもいいと思った。

お互い、どちらからともなく手をつないだ。


フェリシアは蔦の絡まった、感じのいいレストランだった。

レストランのテーブルについた忠彦は言った。


「たまにはいいね、こうしてふたりで歩いて夕食を食べに来るのも・・・」


「そうね」


「あのね、実は僕もそろそろ、会社をでようかと思って・・・」


「あたらしい夢が見つかったの?」


「まだ、はっきりと決まった訳じゃにけど、手応えはあるよ」

「しばらくはその件で奔走するかもしれない」

「僕が会社を辞めたら手のひら返したみたいに僕の周りにいた人は誰も

いなくなるよ」


「最初はね、前にも言ったけど君についてきてほしいって思って た」

「でも、今は迷ってる・・・」

「君に余計な苦労はかけたくないからね」

「しばらくは食べていくだけの資金はあるけど・・・」

「会社辞めたらもう、貧乏男だよ」

「君はそれでもいいの?」


「そんなの関係ない・・・」

「もし他の人がいなくなっても私だけは忠彦についていくよ」


「今更だけど、僕たち恋人どうし・・・だよね」


「はっきりとそうだって言ってないけど、私はそう思ってる」


「君がいなくなったら、僕は生きていけない・・・」


「大げさ・・・私はどこにも行かないから」

「私が忠彦にとって必要と思ってくれるなら嬉しい・・・」


「必要どころか僕の人生の中に莉子がいないなんて、もう考えられないよ」


「じゃあ忠彦の中であばれちゃおうかな・・・」


「僕は真面目だよ」


「わかってる・・・ありがとう」


その夜もふたりのとって楽しいひとときだった。

夕食が終わると、来た時と同じように、ふたりで歩いて帰った。

マンションへ帰る途中に橋の上で、忠彦は立ち止まった。


「ねえ、プレゼントがあるんだけど・・」


そう言って忠彦は手に持っていた手提げの袋を莉子に差し出した。


「フェリシアへ行く間じゅう、持ってたね」


「気づいてた?」


「気づいてるよ」


「ほら、開けてみて・・・喜んでくれるといいけど」

「その袋、持っててあげる」


袋の中に入っていた包みを開けると、それはティフアニーのブルー ギフトだった。

ネックレスやイヤリングなど装飾品がセットになってるギフト。


「これ高かったでしょ」


「君にはそれ以上の価値があるよ」


「だめだよ、こんないいモノ」


「僕たち恋人だよね」


「それはそうだけど・・・」


「もう受け取ってもらえる関係だと思うんだけど・・・」


「でも・・・」

「受け取れない・・・」


「そんなに遠慮するんなら、君からお返しを貰えばいい」


「なに?」


「キスして」


「こんなところで・・・」


「誰も見てないよ」


「ね、いいでしょ」


「今更?」


「何度でも・・・昨日のキスで、味しめちゃった」

「君のキスは僕にとっては宝石より貴重だから・・・」


もうためらう理由などなかった。

忠彦の手が莉子の腕を優しく引き寄せた・・・そして橋の上でふたりの

影が重なった。


忠彦はそのまま莉子を強く抱きしめた。


「このまま、いつまでも抱いていたい・・・」

「いい匂いだ・・・莉子の匂い、ピーチメルバ・・・」


To be continued.

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