第15話:週末の別荘。
ふたりが付き合いはじめてから、
莉子は毎日のように忠彦のマンションに通っていた。
「ねえ、今度の週末どこかに遊びに行かないか?」
「遊びって?」
「うちにさ、クルーザーがあるから海へ出てもいいし・・・」
「ん〜・・・たとえば旅行とか」
「ハワイ・・・ニューカレドニア・・・タヒチ・・・ リゾートなんかでも
いいし・・・」
「遊びって言うか、それって本格的じゃない」
「そんなに、いきなり環境が変わると、私ついていけない」
「贅沢って身についてないから・・・落ち着かないの」
「私は忠彦と一緒にいられるならどこでもいい・・・」
「そうだ・・・私、忠彦の別荘がいい」
「あそこから見える海が好き」
「欲のない子だね」
「でも、そういうふうにすぐノッて来ないところがまた好きなんだけど・・・」
「じゃあ、週末は別荘で・・・僕も君といられるなら、どこでもいいんだ」
「じゃあ、決まりね」
結局、ふたりは週末、忠彦の別荘で過ごすことになった。
そして当日、仲良く車でスーパーに買い出しにでかけることにした。
「あ、ジムニー」
「そう、バイクでもいいんだけど買ったモノ乗せられないからね」
「スーパーへの買い物は軽が一番」
「フェラーリで買い物ってバカ丸出しだからね」
「このジムニー、キャンプ用に買ったんだよ」
「時々、一人になりたい時、キャンプに行くんだ」
「 そのために山も買ったし、いつかいっしょに連れてってあげるよ」
「そうだ、キャンプでもよかったんだよね」
「もう、遅いか・・・」
「山、買ったの?・・・キャンプのために?」
「そうだよ」
「また今度一緒に行こう、楽しいよ」
「うん・・・」
とは返事をしたものの莉子にはキャンプはさほど興味がなかった。
莉子と忠彦はジムニーに乗って、別荘から4キほど離れたスーパー へ
買い物に出かけた。
二日とも、どこにも行かずに別荘で過ごすつもりだった。
スーパーから帰ってくると、昼までヒマだったからふたりは映画を見た。
忠彦の別荘にプロジェクターがあって、見たいDVDもたくさんあったから
退屈はしなくて済みそうだった。
莉子が選んだのはニコラス・ケイジ主演の「天使がくれた時間」
とくにニコラス・ケイジのファンって訳じゃなかったけど、ほっこりする
映画が観たかった。
観てよかったと思った。
忠彦の感動が薄いのはこの映画もう何度も観てるからだった。
そしてお昼はスーパーの帰りに寄ったパン屋さんのサンドイッチ。
「サンドイッチ・・・しばらく食べてなかったな」
「ピクニック気分でね」
莉子は買ってきたサンドイッチをバスケットに詰めた。
「夕食はバーベキューだから、お昼は軽くね」
「これ持ってお庭で一緒に食べようよ」
ふたりは別荘の庭に出た、莉子のお気に入りの海の見える庭。
「この辺がいいかな・・・」
「いい天気だね、雲ひとつないよ」
忠彦にそう言われて莉子は空を見上げた、そして海に目を向けた。
遠くの水平線が霞んで見えた・・・春霞と言うんだろう。
「これから暑くなっていくね・・・」
「忠彦、コーヒーは?」
「大丈夫だよ・・・ブラックで・・・砂糖入れて」
「それってブラックじゃないじゃない」
「僕コーヒー通じゃないし・・・」
「ほんとのコーヒーの味、分かんないのに、ツーぶるのも嫌だし」
「私、コーヒーダメだから、ホットミルク」
ふたりにとってはサンドイッチでもラーメンでもうどんでもなんでもよかった。
「うん、美味しい・・・これ辛子が入ってて美味しい」
「よかった」
「さっき言ったけど、夕食は、庭でバーベキューね」
「仲良く一緒にお肉焼いて食べようね」
「あ、先に冷えたビールで乾杯、かな」
「二人の未来にね・・・」
サンドイッチでもお腹が充分満腹になった。
莉子はホットミルクを飲みながら思い出したように海を見た。
「ね、まさかだけど、プールとかあったりして・・・」
「あるよ、裏に・・・」
「うそ、ほんと?」
セレブの別荘には、なぜか決まってプールがある。
ほとんど使ってないのに・・・。
莉子は急いで忠彦が指差した裏庭に回った。
「ほんとだ、ほんとにある、プール、あはは」
莉子はプールの端にしゃがんで足だけプールにつけて子供みたいにパシャパシャ
した。
その横に忠彦が座った。
忠彦はこれまで見せなかった莉子のあどけない仕草を見てますます莉子が好きに
なった。
「ここからも少し海が見えるね・・・綺麗な海に綺麗な空」
「これからだって、いつだって見れるさ」
少し沈黙が続いた・・・。
「ねえ、莉子・・・キスしていい?」
「え〜もう、いつでもストレートだね」
「ダメ?」
「忠彦のいきなりな申し出に莉子はとまどったがそれでも小さくうなずいた。
「いいけど・・・」
忠彦の唇が近ずいて莉子の唇と重なった。
それがふたりの初キスだった。
「綺麗だよ、莉子・・・愛してる」
「私も・・・愛してる」
慣れないシュチュエーションの気恥ずかしさ・・・。
それを隠すために莉子は、どうでもいいことをしゃべった。
莉子にとっては、心ときめく土曜日になりそうな気がした。
だから忠彦に求められたら、希望に応えようと覚悟を決めていたが、この夜
忠彦は何も求めてこなかった。
その忠彦はまだ戸惑っていた。
今は、まだ無垢ななままの莉子を見ていたかった。
その時が来たら、それは自然のなりゆきて・・・ 恋人同士なら、いずれはそうなって行くだろうと忠彦は思った。
午後の昼下がり・・・陽の光がプールの水に反射してキラキラ光っ ていた。
夕方になると、莉子の言ったとおり、バーベキューだった。
もちろんこれからのふたりの幸せを願って乾杯した。
To be continued.
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