第14話:本当のはじまり。

昨夜は話に夢中になって、結局ふたりの間には何もなく気がつけば外は白んでいた。

その朝、忠彦はかなり元気になっていた。

莉子のおかげだろうか・・・人間なんて気持ちの持ちよう。

それでもまだ、復帰するには少し早いようだった。


「今日、会社休めない?」


「今日は無理」


「そのかわりお仕事が終わったらまた来ますから」

「忠彦、まだ本調子じゃないようだから・・・」

「また何か食事作ります」


莉子は出勤の支度をして玄関を出ながらそう言った。


「ほんとに?・・・じゃ大人しく待ってる」

「僕はあと1日仕事休むから・・・どうせいてもいなくても同じだ から」


「じゃ、行ってきます」

「ちゃんと大人しく寝ててください」


「君のこと考えながら過ごすよ」


「そう言うの重たいです・・・」


「はいはい・・・いってらっしゃい、気をつけてね」


その日の昼休み、美咲が莉子の会社を訪ねてきた。

一緒に昼食を取りながら話した。


「例のチャラ男、あれからどう?」

「何も言ってこない?」


「それが・・・」


「まじで?・・・あんたたち付き合ってるの?」

「うそ?」


莉子はあれからのことの詳細を美咲に話した。


「え、お泊まりした?」


「体調が悪いって言うから、ほうっておけなくて・・・」


「私の知らない間に・・・」

「仮病使ってるんじゃないの?・・・」

「大丈夫なの、あんた」

「ああ言う男って、他にもたくさん女いるんじゃない?」

「気をつけなさいよ」


「大丈夫・・・私だって馬鹿じゃないから」

「それに彼、ちゃらちゃらしたり強気に振舞ったりしてるけど、ほんとは

寂しいんだと思う」

「彼を知ってみると悪い人じゃないよ」

「ただ、ああ言う方法でしか私にアプローチできなかったんだよ」


「お金には恵まれてると思うけどきっと孤独なんだと思う」

「私、そんな人ほおっておけない・・・」


「どうだかな・・・やめたほうがいいと思うけどな・・・」


「心配かけてごめん」

「私は大丈夫だから・・・」


「莉子がいいって言うなら・・・私は何も言わないけど・・・」

「あとで、泣きごと言っても知らないよ」

「充分、気をつけなさいよ」

「じゃあ、またね」

「付き合ってるならしかたないけど、絶対気を許しちゃだめだよ」


そう言って美咲は時間を気にしながら帰っていった。


仕事が終わって莉子は夕食の食材を買って忠彦のマンションへ急い だ。


「ただいま・・・」


「お帰り・・・正直言ってもう来てくれないんじゃないかと思っ た」


「どうしてですか?」


「僕の周りそういう人多いから・・・」


「私は約束は守りますよ」


「ごめん・・・疑って」

「でも嬉しい、今夜も君といっしょにいられる」


「今夜はお泊りはなしですよ、見たところお元気そうですから」

「夕食の支度したら帰ります」


「分かった」

「でも、せめて時間の許す限りここにいて」


「分かりました」


今日の夕食はペペロンチーノ。


「美味しい・・・硬さもちょうどいい」


「よかったです」


「君、料理も上手だね」


「そうですか? 長く一緒にいたら私の化けの皮がはがれますよ」​​


「ところでさ、昨夜のはなしほんとだよね」

「僕と付き合ってくれるんでしょ?」


「そうお返事しましたけど・・・」


「ほらまた、そんなよそよそしい喋りかたする・・・元にもどってるよ」

「僕といるときはお願いだから、リラックスして」


「はい・・・分かり・・・分かった」

「これからそうします・・・あ、もう」

「ごめんね、慣れなくて・・・」


「いいんだ・・・僕こそ無理強いしてごめん」

「そういうのは自然の成り行きでいいんだよね・・・」


「ただ、敬語使われるとよそよそしいって言うか冷たく聞こえて・・・」


莉子は思わず忠彦に近づいて彼を優しく抱きしめた。


「今夜も泊まってもいいかな?」


「え?・・・いいの?・・・うんうん、いいよ、いいに決まってる・・・

襲ったりしないから・・・」


莉子はクスッと笑った。

今日は帰ると言っていた莉子だったが・・・結局、次の朝も忠彦のマンションで

朝を迎えた。


忠彦といると落ち着くし楽しかった。

この生活がずるずると癖になりそうだった。

今朝は忠彦も会社に顔を出すと言った。


朝食を仲良く食べて忠彦のマンションを別々に出た。

莉子はお天気のいい日はいつもバイクだった。

春の心地いい風が後になびく髪に絡んでいった。


「結局、しっかり付き合うことになっちゃったね・・・ま、いいか」


To be continued.

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