第11話:はじめてのお泊まり。

「はいシチューできましたよ・・・どうぞ」


キッチンテーブルに忠彦と莉子のふたりぶんのシチューが並べられて、

野菜サラダの小皿が一緒についていた。


「食べてください」


「お〜美味しそう」


「無理しなくていいですからね、食べられるだけでいいですからね」


「ね、そう言う話し方やめない?」

「普通にタメ口で話そうよ?」


「いいですけど・・・・あ、いいけど」


そうそうって言うように、にっこり笑って忠彦はシチューを一口ほうばった。


「美味い」

「とっても美味しい」


「愛情たっぷり振りまいておいたから」


「君って、時々ドキッとすること言うね・・・」

「それってシチューだけじゃなく、僕にも振りまいてくれない? ・・・そしたら、

即治るから、風邪なんて・・・」


「全部シチューに振りまきましたからもう余ってません」


「僕はどうでもいいの?」


「だから夕食作ってあげたでしょ」


「あ、そうか・・・でも、来てくれてよかった」

「毎日がこんなふうだと幸せだな・・・」


忠彦は夢見がちにそう言った。


「あ、ごめん」

「気にしないで・・・」


「食事済んだら、跡かたずけして私帰りますから・・・」

「ゆっくり、安静にして寝ててください」


「タメ・・」


「あ、そんなに急には切り替えられないです」

「無理しないで寝ててね・・・これでいい?」


「それから忠彦さんじゃなくて忠彦って呼び捨てでいいから」


「そんな親しい間柄じゃありません」

「あ、もう・・・そんな間柄じゃないから」


「僕は君のこと莉子って呼ぶから・・・いいよね」


「お好きにどうぞ」


「後片付けしたら私帰り・・・帰るから」

「それより早く食べないとシチュー冷めるよ」


「つまんない・・・」

「つまんない夜を僕一人で過ごすのか・・・さみしいな 」


「お泊まりはしませんよ」

「恋人でもないのに、そんなことできないです」


「じゃ、今夜から、たった今からはっきり僕の恋人になってよ?」


「何、言ってるんですか」

「病人なんですから、おとなしく寝ててください」


「タメ・・・」

「あ〜もう、どうでもいいでしょ、そんなこと 」

「急にタメ口なんて無理です」


「じゃ〜それはいいけど・・・ここにいてほしい」

「帰らないで・・・」


「そんなこと・・・」


「お願い、何にもしないから」


「あたりまえです・・・病人が何言ってるんですか」


「君だって帰ったらひとりだろ」

「ひとりよりふたりのほうがいいって思わない?」

「ね、今夜一晩だけ泊まって」


「でも、そう言うつもりで来てないから・・・」

「着替えもなにもないし」


「大丈夫、そういう時のために女性用、用意してあるから」


「え〜〜・・・やっぱり私帰ります」


「女性用のモノは妹が時々ここにも来るからだよ・・・それで用意してあるの」

「だからお願い、病人の頼みだと思って」


「どう言う妹さんなんだか怪しいですね」

「妹さんって名前の愛人たくさんいるんじゃないですか?」


「それは誤解だって・・・僕には君しかいないよ、神に誓って・・・」

「ね・・・だから、お願い」


忠彦に手を合わせてお願いされた。

そう言うお願いや押しに莉子はまじで弱かった。


「だって・・・」


「ほんとに・・・お願い・・・本当になんにもしないから・・・」


「・・・・・・・」

「もう・・・じゃ今夜一晩だけですよ」


「まじで?本当に??やった〜・・・ありがとう」


「元気じゃないですか・・・」


「あ、そうだった・・・ダメだ・・・あ」


嬉しそうに子供みたいにはしゃいだり落ち込んだりしてる忠彦を見て莉子は

おかしかった。


「しゃべってばかりで早く食べないからシチュー冷めちゃいましたよ」

「温め直してきます・・・あ、温め直して来るから・・・」


結局こうなっちゃったって莉子は思った。


To be continued.

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