第10話:忠彦の気持ち。

到着したマンションはセレブが住むマンションにしてはこじんまりした一戸建て

マンションだった。

てっきり高層高級マンションに住んでるものとばかり思っていた。


でもセキュリティーはしっかりしてるらしく 莉子は忠彦から教えてもらったIDとパスを入力して建物の中に入っ た。

そしてエレベーターで5階まで上がると忠彦の部屋のドアのチャイムを鳴らした。

しばらくして無精髭の忠彦が出てきた。


「莉子ちゃん・・・来てくれたの?」

「入って・・・」


「お邪魔します」


「てっきり高層マンションかなんかに住んでるのかと思いました」


「思うよね・・・でも僕って高いところ苦手なの」

「それに窓から見える無機質な世界も・・・」


「そうなんですね」


男一人の部屋にしてはきちんと片付いていた。


「大丈夫なんですか」


「風邪ひいたみたいだね・・・」

「僕ね、風邪ひくと長いんだ」

「子どもの頃、扁桃腺切って少しはマシになったんだけど、 それでも一度引くと

治るまで長くて・・・」


「言ってくださればもっと早く来たのに・・・」


「君に移しちゃいけないと思って・・・ 治るまで黙ってようと 思った

んだけど・・・」


「あまり大きな声でしゃべらないほうがいいですよ」

「もう夕方ですけど、食事は?」


「何も食べる気がしなくて・・・」


「少しは食べないと栄養取れませんよ」

「私作ります・・・消化のいいものはいいですね、って言ってもたいしたもの

作れませんけど・・・」

「シチューくらいなら食べられます?・・・」


「君が作ってくれる料理なら、なんでも食べるよ」


莉子は途中で買ってきた食材を持ってオープンキッチンで支度をしながら言った。


「病院へは行ったんですか?」


「風邪くらいじゃ行かない・・・」

「行ったって普通に風邪ですって言われておしまいだもん」

「寝てたらいずれ治るよ」


「もし風邪じゃなかったらどうするんです?」

「ちゃんと診てもらったほうがいいですよ」


「いいの」


「君が来てくれたから元気が出たよ」

「病気なんて、好きな人がそばにいてくれたほうが早く治るんだよ」


「他にガールフレンド、いるんでしょ?」


「友達だよ、付き合ってる彼女なんていないし・・・」

「あ、君は別だけど・・・」


「私はあなたの彼女のひとりには、まだ入ってないと思いますけど・・・」


「そんなこと言うとまた熱がぶり返しちゃうよ」

「僕が君を好きになった理由ってなんだと思う?」


「ん〜暇そうにカフェの椅子にボ〜ッと座ってたからじゃないんですか?」


「最初はさ、君のビジュアルに惚れたの」

「でも、何度か・・・って言ってもまだ2度だけど」

「君を見てると僕の肩書きお金には興味なさそうだと思っ た・・・」

「そういうのって経験で分かるんだ」


「そんなこと分かんないじゃないですか?」

「私だって人間ですから、お金に興味がないなんてことないですよ」


「僕は子どもの頃からいろんな人を見てきた、お金があるだけに余計分かるんだ」 「大概の人は僕の地位とお金にしか興味がないんだ」

「セレブなんて言うだけで、僕の人格は無視して寄って来 る・・・」

「だから僕は本当の自分を愛してくれる人を知らない」


「女性の愛情に飢えてるんだ・・・」

「でも、ようやく君を見つけた」

「僕の目に狂いはないと思った」


「そんなに私を信用していいんですか?」

「かいかぶり過ぎです・・・私だってお金目的かもしれませんよ」

「今のうちに諦めることをお勧めしますけど・・・」


「君は僕のこと、なんとも思ってないんだね」

「僕はこれから、ずっと君に片思いのままなのかな・・・」

「そんなの嫌だな・・・」


そう言われて莉子はドキッとした。

嫌いなわけじゃない・・むしろ少しづつ忠彦に惹かれつつある自分がいる。

忠彦の「そんなの嫌だな」って言葉に莉子は胸がキュッってなった。


莉子は忠彦のことが気になったから様子を見に来たんだから・・・。


To be continued.

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