第9話:揺れる気持ち。

二度のデートの誘いで忠彦の別荘まで行ったが 考えて見れば忠彦が自分の会社のCEOだという以外、莉子は彼のこ とをまだ少ししか知らない。


莉子の中で忠彦のことをもっと知りたいという欲望が芽生え始めた。


あれだけのイケメンで羽振りがよかったら ガールフレンドもたくさんいるだろう・・・それも心配の種ではあ った。

公私ともに忙しい人・・・今は積極的にアプローチしてるけど そのうち私とデートする時間も制限されるだろうなって思った。


(彼のことはあまり知らないまま、さよならしたほうがいいのかな)


深入りすると戻れなくなりそうな気がした。

それとも、流れに任せてこのまま付き合おうか・・・。


それからしばらくは会社の玄関先に派手な車は止まらなかった。


こちらから連絡を取るほどの用事もなかったし、あわてて連絡をしても隙を見せてるようで嫌だった。

今は特別会いたいという訳でもない・・・。


まだ、そこまで気持ちが動くほど莉子にとって忠彦は大切な人でもなかった。

少しだけ気にはなったが、そのままスルーした。


いつものように自分のディスクで仕事をしていると携帯が鳴った。


「はい、たかむらです」


「もしもし莉子ちゃん」


「芹沢さん?」


「芹沢さんなんて水臭い・・・」


「ねえ、今夜食事どう?」


「今夜ですか?」

「今日の今夜って急に言われてもちょっと・・・」


「僕ね、昨日まで海外に出張してたの」

「君の顔が見れなくて寂しかったよ」


「何度も言うようですけどストーカーと変わらないんじゃないですか?」


これは本気じゃなく、莉子の精一杯の冗談・・・嫌味だった。


「・・・・・・ちょっとね君の声が聞きたくて・・・」


「じゃあ、デートはこの次・・・」

「本当はね・・・・」

「ごめん・・・悪かった・・・おやすみ」


そう言って電話は切れた。

今日は案外すんなり引き下がったなって莉子は思った。

気になるのは「本当はね・・・」忠彦が残した意味深な言葉・・・。


それから4・5日忠彦から何の連絡も来なかった。

連絡が来なければ来ないでどうも気になる。


莉子は恐る恐る忠彦に連絡を取ってみた。

忠彦は電話にはちゃんと出た。

でも、どことなく元気がなそうだった。


「あ、莉子ちゃん・・・」


「最近、全然、ストーカーしてこないから、どうしたのかと思いまして・・・」


「お、気にしてくれてたの?」

「今ね、ダウンして家で寝込んでる最中・・・」


「声、変ですね・・・」

「寝込んでるって・・・?」

「大丈夫なんですか?」


「たぶ・・・ん」


すると忠彦の電話の向こうで女性の声がした気がした。


「あ、ありがとう、じゃまたね」


「は、すいません、私もう切ります」


「あ、そうじゃなくて・・・莉子ちゃんに言ったんじゃないから」


「今、女性の声が聞こえた気がしましたけど・・・」


「うん、友達がね、気を使ってお見舞いに来てくれただけ・・・」


「そうなんですか・・・じゃあ私は必要ないんですね」


「そうじゃなくて、君に迷惑かけちゃいけないと思って黙ってたんだけど・・・」

「本当のこと言うと君に一番そばにいてほしい・・・って思ってる」

「莉子に会いたくてしょうがない・・・」

「君に会いたい・・・無性に会いたいんだ・・・」


「私、行きます・・・待ってて」


そう言ったが、その一瞬は自分の衝動が分からなかった。

ほうっておいてもいい話なのに・・・。


(行ってあげなきゃ)


寝込んでるって言ってる人をほおってはおけない。

本当はそういう義務感じゃなく、この時、莉子は無性に忠彦に会いたいと思った。

莉子は忠彦のマンションの場所を聞いて中途退社してレブルで走っ た。


To be continued.



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