第8話:父親の影響。

半ば上の空で莉子は窓越しに海を見た。

その景色だけは、これからも見てたいって思った。

別荘から見える海から視点を変えると部屋の向こうに赤い車が見え た。


ここからすぐガレージへ行けるようで、居ながらにして好きな車が見られる

ようになっているようだった。


「私、バイクを見せてくれるって言うから来たんです」


「ああ、そうだったね」

「見るかい」


「はい」


そう言いながら忠彦は飲み物を莉子に差し出した。


「じゃあ、こっち」


莉子は忠彦の後ろを付いて行った。

広いガレージには並み居る高級車が並べられていた。

ガレージと言うより、まるで博物館。


「すごいですね」

「これ全部、あなたのですか?」


「そうだよ、車もバイクも好きでね」


最初の夜に莉子を迎えに来たフェラーリにベンツにBMW。 可愛いローバーミニに今、別荘の玄関先に止めてあるポルシェ。

クラシックカーらしき車も2台ほどあった。

あとレクサスの他に、国産車も何台かあった。


そしてその向こうに見えるバイクのシルエット。

最初に見えたのは、ドゥカティ、他にハーレーに BMW、モンキーにスーパーカブ

まであった。

それに昔のバイクも何台か綺麗に横に並んでいた。

古いバイクは父親の影響で知っていた。

陸王にメグロ・・・メグロZ7。

それにラビットまであった。


そんな古いバイクまで持ってる。

この人は本当に車やバイクが好きなんだなって莉子は思った。


「こう言うのはただ、好きだから持ってる訳じゃないんだ」

「価値のある物を持ってれば、多少なりともいつか役に立つからね」


「ほんと、すごいですね」


「まあ、ね」


莉子は一台、一台、目を皿のようにして見て回った。

これだけの名車が一度に介して見れることなんてメーカーの博物館にでも

行かないとほぼない。

莉子にとっては夢のような出来事だった。


「これだけ維持できるんですから、セレブってやっぱりすごいです ね」


「あまり自慢はしたくないんだけどね・・・」

「セレブって言われるのも、好きじゃないし・・・」


「ごめんなさい・・・バカにして言ったつもりじゃ・・」


「君こそ、バイクが好きなんて、変わってるって言われない?」


「私、父親の影響で・・・それでバイクが好きになったんです」


「へ〜そうなんだ」


「お父さん今でも現役で乗ってらっしゃるの」


「父は亡くなりました」


「あ、それはお気の毒に・・・余計なこと聞いたかな、ごめんね」


「いいんです、お気になさらないでください」


「良かったら、僕のバイク、どれでも乗っていいよ、いつでも走れるように

メンテしてあるから」


「いえ、そんな怖いこと・・・止めておきます」

「それに大型免許持ってないですから、モンキーかカブくらいしか乗れません」


「別荘の敷地内ならいいんじゃないの?」


「でも、もし傷つけでもしたら大変ですから、見せていただけただけで満足です」

「それより、そろそろ私、もうおいとましないと・・・」


「え、来たばかりなのに?」


「ここから少し先に素敵なイタリアンがあるんだけど昼食くらい食べていきなよ、

まだいいじゃない?」


「いえ、今日は帰ります」

「実は私、お昼から美咲と約束してて・・・」

「それに今、帰らないとここに居座ってしまいそう」


「僕はそれでもいいけど・・・」

「美咲さんって、あの怖い子?」


「私には優しい親友です」


「あ、ごめん」

「それじゃ無理強いする訳に行かないかな」

「君を帰さないと、美咲さん?に怒鳴り込んで来られると困るから・・・」


莉子はくすって笑った。

美咲ならやりかねないと思った。


「せっかく来たのに、今度は誰とも約束なしで来てほしいな」


「そうします」

「今日は貴重なもの、見せてくださってありがとうございました」


「僕も楽しかった・・・少しでも君といられて嬉しかったよ」

「じゃあ送ってくね」


「ごめんなさい・・・気を悪くなさらないでくださいね」

「こんなこと言っていいのか分かんないんですけど、 次はちゃんとお誘い

受けますから・・・」


「本当だね、約束だよ、やっぱりダメです、なんてなしだよ」


「はい、私の気持ちが変わらないかぎり・・・」


「また〜」

「って・・・もう、そうやって、僕を翻弄しないでくれる?」


莉子はポルシェの助手席で、笑った。

最初に抱いた忠彦に対する悪いイメージは、もうとっくに莉子の心の中から

払拭されていた。


To be continued.

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