第5話:トライアンフ。

仕事が終わって会社の玄関を出たら案の定、忠彦が待っていた。

それも、ちゃんとバイクで・・・。


「ご要望通り、バイクでお迎えに来ましたよ、お嬢さん」


忠彦が乗って来たバイクはトライアンフだった。

莉子は少し驚いた、チャラ男が乗るバイクにしては渋い選択。

トライアンフと言えば、現存する最古のイギリスのオートバイブランド。


モデルは BONNEVILLE T100「ボンネビル」 ツー好みのバイク。

以外といい趣味してると思った。


「トライアンフって・・・渋いですね」


あとで分かった話だが、バイクは他にハーレーにBMW、ドカテ ィ、ベスパ、

モンキーにスーパーカブまで忠彦は持っていた・・・。

それに昔のバイクも何台か所有していた。

それだけ維持できるんだからセレブは違うなってその時、莉子は思 った。


「じゃ、行こうか・・・乗って」


一度食事をおっけーしたからには覚悟を決めようと、そう思ってトライアンフの

タンデムシートに跨って忠彦の体に身を委ねた。

そのほうが揃ってコーナリングがスムーズにしやすいことを莉子は 知っていた。


「私、トライアンフ初めてです」


「いいでしょ、僕トライアンフのエンジンの形が気に入ってるの」

「それに音もね・・・」


「私、トライアンフの排気音、聴いたの今日はじめてです」

「いい音・・・」


トライアンフの心地い音とトルク感のあるスピード。

人には分からない感覚・・・まるで揺りかごに乗ってる気分。


普通ならバイクより車を選択するところなんだろう。

莉子もまた、少し変わった子なのかもしれないと忠彦は思った。

莉子はこの先の食事より、このままバイクでどこかへ連れて行って ほしいとさえ思った。


忠彦の背中にしがみついてる時間が心地よく楽しい時間だった。

トライアンフで、たどり着いたそこは洒落たフランス料理店だっ た。

いかにも高そう。

きっと三ツ星レストラン。

店の入るとギャルソンが丁寧にテーブルに招いてくれた。

椅子に座った莉子は


「いいんですか、こんな高そうなお店」


「いいのいいの、綺麗なお姫様にふさわしいお店でしょ」


「お姫様だなんて、あなたの買いかぶりです」


「私は特別の女じゃありません」

「本当の私を知ったら、きっと幻滅しますよ」


「そんなこと言って僕を遠ざけようとしても無駄だよ」

「さ、なんでも好きなもの、注文して・・・」


「あの、メニュー見ても分かりません」

「じゃあ、僕がオーダーしても?」


「お任せします」


そう言うと忠彦はテキパキと注文をオーダーした。


「どう?、たまにはいいでしょ、こう言う贅沢も・・・」

「普段はこういう店利用しないでしょ?」


テーブルに並んだ素敵な料理も聞いたことのない名前のワインもどれも、

とても美味しかった。

普段、少食のほうだった莉子も全部平らげてしまった。


「僕さ、ご飯いっぱい食べる子、好きなんだ」


「今日は特別美味しかったから・・・」


「いいのいいの、上品ぶったってしかたないんだから」

「いっぱいご飯食べる子って、性格もポジティブって聞くよ」


「え~初耳です」


「私、普段そんなに食べません」


「じゃ~美味しい食べ物の時はお腹に入っていくんだ」


「私を普段マズいものばかり食べてるみたいに言わないでください」


「ごめん、ごめん、悪かった」


「でも、とっても美味しかったです、ごちそうさまでした」


「食べたいモノがあったら、いつでも言って」

「イタリアンでも中華でも・・・連れてってあげるから」


「一度っきりって約束ですけど・・・」


「そんなこと言わない」

「そうだ、よかったら今度、僕の別荘にご招待するよ」


「君の好きなバイクも見れるよ」

「それにバイクの話なら君とも気が合いそうだし・・・ね」


「うまいこと言いますね・・・」


「いいじゃん、何も取って食おうって訳じゃないんだし」

「バイク見せるだけ・・・いいよね・・・」


思ったより忠彦が紳士的だったことと、特に断る理由も見当たらなかったので、

莉子は小さくうなずいた。


「じゃ~決まり」


食事も一流だし、美味しかったし、最高のもてなしだった。

トライアンフにも乗れたし・・・。

帰りの忠彦の背中もなんだか頼もしく感じた。

そのまま、海へ連れてってほしい衝動に駆られたが、最初っから隙は見せたく

なかったから、口をつぐんだ。


この夜は莉子にとっては高級フランスレストランといいトライアンフといい新鮮

で楽しいな夜だった。

忠彦のデートの誘いもまんざら嫌とは思わなくなってい た。


To be continued.

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