第27話 霹靂姉妹


「ブノ‼」

「けんじぃ‼」


 ふわりと揺れる銀髪から懐かしい花の香りがする。

 一年ぶりに会う彼女は片側の髪を綺麗に編み込み髪飾りをしており、以前より身なりに気を使っている感じがした。胸には最後に会話した時同様に、ディシィヒローアスの証がキラキラと輝いている。


「ははっ…なんか綺麗になったなぁ」

『はっ⁉』

「あぁ、すまん。そんな場合じゃなかった…」


 背後から刺すような視線を浴びせられているような感覚がするが、それを差し引いても彼女の顔をまた見れたことが嬉しかった。

 瞳を見開いて首を伸ばして固まっている彼女の頭を、思わずポンとなでてしまう。なんだか随分と長い年数会っていなかったような気分で、そこに本当に彼女がいるのか確かめたかったのかもしれない。


「ふうん、仲が良いのは本当の話みたいね」

「…で、あなたは一体誰なんだ?」


 いきなり刃物を取り出して、無茶な選択を迫ってきた女性へと向きなおる。彼女がブノと同じ一族だという事くらいは察しがつくが、命を狙われるようなことをした覚えはなかった。


「私の…姉、ベネフねえ…」

「ベネフローア。私の名はそう呼びなさいヒト族の男」

「…あなたがブノの姉さんなのか…」


 似ていない、はっきりとそう思った。

 口調も顔も表情も立ち振る舞いも、同じ種族ゆえの類似点のようなものはあるが、ブノの纏っているひまわりのような明るさとはむしろ真逆のような印象を受ける。


 精巧につくられたガラスの花…。そんな画が彼女のぴしりと背筋の通った立ち姿から連想された。


「ふぅ…じゃあ改めて、俺の名前は島居賢治。この山の持ち主で麓の家に住んでいる人間だ。それでさっきの話はどういう意味なんだ?」

『姉さんけんじぃに何を話したの⁉』

『別に? ただこのヒト族がどんな奴か試そうとしただけよ』


 彼女らの言葉でやり取りが始まってしまった。

 何を話しているかは分からないが、表情から読み取れる彼女達の関係は、決して仲睦まじい姉妹という雰囲気ではなかった。


「申し訳ないが、俺に分かる言葉で話してくれないか」

「あら、何故かしら。あなたが私達の言葉を分かるようになればいいじゃない」

『姉さん!』


 どうにも突っかかってくる。

 俺から何かしらの言動を引き出そうとしているような、そんな挑発的な空気がある。


しようというなら、それくらいは出来るものと、私は思っていたわ」

「………は⁉」


 両目をひん剥いてアゴが落ちる。

 青天の霹靂すぎて全く頭が追いつかない。

 頭に雷が落ちて火花が散っているようだ。


「ぶ…ブノ……?」

「……ごめん。けんじぃ」


 何がごめんなのかも分からない。

 俺は焼き切れた脳内をどうにか修復しようと試みるが、耳先を赤く染めてうつむくブノの姿を見て、更に情報が渋滞していくのを感じたのだった。






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