◆◆◆
耳を塞いだときの地鳴りのような音が響く。
自分が指先さえ見えない暗闇の中に立っていることが分かった。辺りを見回すと、頭上にぼんやりと朱色に発光する三又の角が見える…。
暗闇に徐々に目がなれていき、自分の軽く三倍はあろうかという大きさの存在に覗きこまれていることに気づいた。
三又の角の光に照らされ、縦に三つ綺麗に並んだ瞳が煌めく。
その瞳の一つ一つが俺の頭ほどもあり、ひどく仰々しい姿ではあるのだが、不思議と恐怖は感じなかった。
辺りを包むように響く地鳴りのような音も、まるで家族の心音を聞いているような安心感がある。
「あなたがブノの山の神様なのか?」
『………』
三つの瞳はじっと俺を観察するように見つめるばかりで、何かをこちらに伝えてはくれない。
「なぁ、あなたに力があるなら、ブノを貴方の山に帰してやってくれないか…彼女はこの世界の者ではないんだ…」
あの子は家族を、仲間を思って寂しがっている。
俺を見つめ返す緑色の大きな瞳はゆったりと瞬きをすると、暗闇から浮き出るように巨大な手を俺の胸先にだらりとたれ下げる。
苔のような、土のような匂いがする。
その手は、細い蔦や木の枝がぐるぐると隙間なく巻きついていて、木や蔦そのものが手の形を作っているようだった。
だらりと垂れ下げられた大きな手は、まるでお手をどうぞと言うように静かに佇んでいる。地神が何を求めているのか分からない。頭に思い浮かんだのは祈りを捧げるブノの姿だった。
俺はブノがやっていたように膝をつき、両の手を丸めるようにして組んで頭を垂れる。その額にひたりと伸びてきた指先が当たった。
瞬間、ぶわりと身体の中を風が駆けた気がした。
生き物の鳴き声のような、細胞の一つ一つに挨拶をされたような感触が額から吹き抜けていく。
その最中、風が淀む場所がある事がわかる。
額から指が前触れなく離れた。
何かとても大事なことを見透かされたような気がして、俺は顔を焦るように上げる。離れた指先はゆっくりと俺の目先から外れ、俺の胸元を指し示す。
気付くとそこが熱くなっており、何かが光っている。
俺はいつのまにやら光っているそれを胸元から取り出した。
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