夏が始まる
木曜日御前
夏が始まる
「
口ずさんだ歌。
夢の中で目の前に広がるのは、私だけのオーシャンブルー。
大嫌いな磯の香り、纏わりつく熱い砂のザラザラ、肌を焼くような日差し。大きな波は私を怖がらせるように、波打ち際をジリジリと私の方へと縮めていく。
それでも、私は、私をここに置いて、去っていく船を見ていた。
「
熱い空の下、私は渇きを覚えながら蹲る。足の指先を濡らす海水。飲んだ所で、更に渇きを覚えるだけだ。でも、もう取り残されたくない。去って行かないで。待って、待って。
あんなに嫌いな海へと走り出し、下手な犬掻きで前に進むが、結局足を取られて、この青いだけで何もない海へと溺れていく。
(
口から出ていく酸素が泡となり光へと登っていくのを、私は藻掻き苦しみながら掴もうとする。
けれど、手で握った泡は細かく分裂し、手の隙間から霧散していった。
ああ、海に沈む。
「
私の最後の言葉は、誰かに届くのかな。
けれど、そんな私を掬い上げてくれるあなた達がいた。
深い海に眠りかけていた私が、夏の日差しの下へと戻ってきた。光が眩しいのか、君達が眩しいのか。嗚呼、嗚呼。
「
今年の夏が始まる。
夏が始まる 木曜日御前 @narehatedeath888
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