第九話:眠る貴方に語り言

唸り声が寝息に変わった頃

私は人間用枕に腰掛けて、あの人の顔を伺いました


「あら、よだれ」

「ちゃんと拭いてあげますからね」

「まだまだお子様です。寝顔もお子様・・・!」


口元から垂れるそれをティッシュで拭い、ゴミはゴミ箱へ投げ捨てる

きちんと入ったことを確認して、もう一度寝顔を見守り始めた


「いつもお疲れ。お仕事は大変なのでしょうか」

「私にもお手伝いできることがあればいいのですが、貴方は絶対に手伝わせてはくれません」

「私だって、荷物運びぐらいできたりするのですから・・・修羅場?な時は手伝わせてくださいよ・・・」


ふにっふにっと、頬をつついておく

もちろん起きる気配はない

しかし、違和感があるらしくて、少し嫌そうな顔をしてから寝返りを打つ


「あら」

「ごめんなさい。眠っている時に嫌な気持ちになるのは嫌ですよね」

「でも、ほっぺがふにふにです」

「もっと触りたいのですが、起きている時にしましょうかね」


私はそのままベッドに戻らず・・・

反対側に顔を向けた貴方の腕の中に滑り込む

大きな腕を枕にして、胸へ額をつけた

布越しだけれども、そこからは作り物では鳴らせない音がする


「・・・とても、心地がいいです」

「聞いているだけで落ち着きますね。貴方が生きている音は」

「・・・私も欲しいなぁ」


作り物の私はなぜか動ける

けれど、この胸からは何も音は響かない

心臓なんて持ち合わせていない

もちろん貴方にある臓器と同じものは存在しない

この身体は、動けるようになっても傀儡らしい骨組みだけなのだ


「・・・ねえ、オーナー」

「私には・・・心があると思いますか?」

「空虚な私の、貴方を思いやるこの心は・・・本物だと思いますか?」


ふと、背中に手が回された

起こしてしまったらしい


「あっ・・・起こして・・・ん?」


ポンポンと、優しく背中を撫でられる


「そうですか。本物だと、言ってくれますか」

「作り物の私でも、心があるらしいです」

「それができたのは、貴方のおかげですね」

「・・・自分が変われたのも、私のおかげ?」

「そうですか」


更に距離を近づけて、目を閉じる

もちろん、あの人も一緒に目をつぶってくれたようです


「私は一年売れ残った人形」

「けれど今は・・・それにも意味があったと思います」

「貴方に巡り合うために、私はずっとあの場所にいたと・・・心から思います」


「一つ、我儘を言ってもいいですか?」

「絶対迷惑だなって思う我儘です」

「いつでもどこでも、私を連れ立ってくれませんか?」

「一瞬でも、離れたくないのです。全部一緒がいいのです」

「なぁんて・・・流石に無理です・・・へ?いいんですか?」

「・・・言ってみるものですね」

「あ、そうですね。明日は一緒にお仕事です」

「早く寝ないとですね」


そうそう。一ついい忘れていた事がありました


「おやすみなさい」

「明日もいい一日にしましょうね?」

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