第八話:眠る前にいつかの約束を

眠る前に、ドレスからパジャマに着替えてもらう

天野手作りのパジャマだ。ちなみに三角帽子つき


「本当に、いつ着ても肌触りがいいですよね」

「しかも縫製もしっかりしている・・・これ、本当に陽キャの手作り?」

「・・・性格からは考えられない代物です」


まあ、言いたいことはわかる

天野は昔から手芸が得意だ

小学生の頃から付き合いがあるからな。知らないことの方が少ない


「そういえば、貴方も手先がとても器用ですよね」

「私が使いやすいよう、家の設備に一工夫していますし」

「実は、服も作れたり?」


器用なのは自覚しているが、そこまで器用ではない

私にできるのは、せいぜい「ミニチュアづくり」程度だ


「できない・・・のですか」

「でもでも、仕事で色々な模型を作っているではないですか」

「・・・手先が器用でも。できることとできないことがある」

「言われてみればそうですが・・・」

「我儘を申し上げると、私個人としては・・・貴方の手作りお洋服に興味があります」

「だって、裁縫自体はできないわけではないと思うのです」


ほら、と彼女が示した先には、クラフトバンドで作り上げた大きなカゴ状

アイレのために作り上げた、彼女専用のベッドだ

中にはもちろん、手縫いの布団と枕が入り込んでいる


「だってこのお布団!貴方が作ってくれたではないですか!」

「枕だってそうです!」


簡単なものはできるけれど、それ以上となると難しい

強いて言うなら、ボタン付け程度しか後は見込めない


「・・・駄目ですか?」

「しょんぼりです」


しかし、こんなに期待されているんだ

やらないといけない・・・そんな使命感に駆られてしまう


「へ?今度、布と綿を買ってくるのですか?なぜ綿なのですか?」

「・・・まさかきぐるみ?」

「違う?ふむ。服は難しいけれど、それでぬいぐるみを作る?私の?」

「練習がてら、簡単なものから」

「簡単ですかねぇ・・・」

「そうだ。私も作ります!」

「一緒に作れば、わからないところも教え合えますし・・・いかがでしょう?」

「やった。じゃあ約束ですよ?絶対、ぜぇったい、一緒に作りましょうね!」


指切りの代わりに、私は小指を

アイレは私が差し出した小指を握りしめ、小さく揺らす


「ゆびきりげんまん、嘘ついたら服十着買〜わすっ!」

「ゆびきった!」

「針千本はきついとおもうので、私の服十着にしておきました」

「人間用より桁が一つ多いので大変かと思いますが、約束を守れば回避可能ですので」

「破る気がないことぐらいわかっていますよ。少し、からかってみただけです」


アイレはふらふらとベッドの方へ向かう

そこから枕を取ってきて、また私の方へ戻ってくる

そして両手を広げて合図。どうしてほしいかは手に取るようにわかる


「ん!」

「んぅ〜・・・ん!」

「いやぁ、便利ですね。人間エレベーター」

「本来行く予定のない場所には私用のはしごがかけられていないので、移動が大変なんですよ」

「・・・貴方のベッドに行くはしご、かけてほしいものです」

「別に悪戯とかしませんよ?」

「顔に油性ペンでらくがき〜とか、幼稚なことはしたりしませんよ」

「ただ、寝ている貴方をみたいなとか」

「寝る直前まで、貴方とお話をしていたいな・・・とか」

「・・・添い寝を、したいなとか」

「そんなことを、考えてはいます」


さりげなく私の布団に入り込んだアイレは、なぜか私を布団の中へ手招いてくる

・・・普通は逆では?

でもまあ、私もそろそろ寝る時間だ

アイレのお誘い関係なしに、そろそろ眠らなければ


「でも今日は、貴方ももう寝る時間でしょう?」

「明日はリモートではなく、出勤をしないと行けない日になっていました」

「早く休むのが吉です」

「さあ、目を閉じて」


アイレの声に任せて、目を閉じる

彼女の声しか聞こえない、真っ暗な空間

なにも怖くはない、むしろ眠気も相まってふわふわとした感覚を覚えた


「今日も一日、お疲れ様でした」

「ゆっくり休んでくださいね」

「明日はきっと、今日よりも」

「たぁっくさん、いいことがあるはずですからね」


「・・・顔がまだ険しい」

「明日のお仕事、不安ですか?」

「大丈夫ですよ。貴方はしっかり、今日に向けて準備をしてきたのですから」

「自信を持って。貴方なら大丈夫」


「それでも不安なら、出先に私を連れて行ってくださいな」

「外に出た私は人の目がありますので何も喋れませんし、動けませんけれど」

「側で見守ることは、できますから」


アイレが優しく語りかけてくれる声と共に、私は眠りにつく

明日が不安になる日の方が多いけれど・・・今は、大丈夫だと思えてくる

それはきっと、彼女のおかげだ

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