第七話:思い出のドレス

衣装ケースからアイレの衣服を取り出していく

彼女は取り出したそれらを吟味しつつ、明日の服を考えていた


「やはりラフな格好がいいんですよね。家事をするには一番都合がいい・・・」

「貴方はどれがいいですか?」


ふと、アイレから意見を問われたので、近くにあったパーカーセットを手渡す

彼女がご所望の「ラフな格好」だ


「む、しんぷるいずざべすと。流石ですね。私が欲しい物をわかっていらっしゃる」

「あの・・・まだ、時間はありますか?」

「よかった。実のところ着てみたい服がありまして」

「少し待っていてくれますか?」


アイレは服を抱えて、ソファの裏へ行ってしまう

一応、私に見えないようにしながら彼女は衣服を脱ぎ、手に取った服を着始めた


・・


「んしょ・・・んしょ・・・」


ああ本当に重苦しいだけのドレスです

黒のレースで縁取られた夜空色のドレス

中世のお嬢様が着ていそうなドレスを膨らませるためにパニエを身に着けて、一回転

ふんわりと広がったそのドレスは私が身につけた最初のドレス

あの人と出会った時に身に着けていたドレスだ


このドレスは運がいいことに、脇にチャックがあるタイプ

その為、私はこれを一人で身につけることができるのだ


「流石に、背中にボタンがあったら一人で着られないけれど」


最後に同色のヘッドドレスを頭に被せ、顔の下でリボン結び

靴は専用の同色ヒール。ストッキングは時短の為に未着用

けれどどうせスカートで下は見えない

これで完成。多少の誤差はあるけれど、出会った当初の私に戻った


「あの、できました」


あの人の前に、姿を表す

少しだけびっくりした表情をしていたが、すぐに穏やかな表情に戻り

駆け寄った私を、しっかり抱きしめてくれた


「どうですか?似合っていますか?」

「・・・そうですか。私は世界で一番、綺麗ですか」


私、このドレスが嫌いだったんですよ

暗い色で、それこそ夜空で・・・闇のようで

葬式ドレスのような、重苦しい空気を放っていたのですから

それに加えて、動く前の私は無表情

空気が重くて、誰も手に触れなかったのも理解できます


「・・・へ」


けれど、貴方はいいました

こんな私に一目惚れをしたと

その時、何を思ったのか・・・やっと話してくれましたね

頑なに言わなかった「私を買った理由」


夜空に輝く一等星

君を見た瞬間、自分の中に風が吹き渡った感覚を覚えた


「・・・なんですか、それ。変わった理由です」

「だから、アイレ・・・風と名付けたのですか?」

「そうですか。ねえ、私は・・・貴方の風になれました?」

「なれていたら本望です。私を買って損をされたら困りますし」

「損なんて、させたくありませんし・・・」


貴方の指が私に伸ばされる

触れたのは頭ではなく、髪

手入れをするときと同じような優しい手付き

髪を一束掬ったら、それをゆっくり口元へ持っていく


「・・・髪へのキス。どうして」

「大胆なことは嫌いだと・・・」

「・・・いち早く、私に今の感情を伝えるために?」


損得関係なしに、君と巡り会えてよかった

君を買って後悔した日は、正直に言えばある

けれど同じかそれ以上。君を買ってよかったと思う日があった


「私も、同じです」

「沢山の不安がありました」

「けれど、それ以上に・・・今が幸せなので!」


体勢を変えて、手のひらに立つ

そして精一杯の背伸びをして、頬にキスを一回

一番手っ取り早く、気持ちを伝える方法だから

ああ、三年も一緒にいたら

考えも、似てしまうようですね


「・・・んっ」

「頬のキスは、親愛ですよ?」

「どうかこれからも末永く。よろしくお願いしますね?」


いつもの笑顔を浮かべて、あの人のそばに寄り添う

それからしばらくの時間を過ごし・・・テレビが二十三時を知らせた

そろそろ眠る時間がやってくる

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