新エリア発見
「うわっ――ぐおっ!?」
一瞬か数瞬かの浮遊感から、背中に伝わる地面の衝撃。
幸いなことに下は腐葉土のように少し柔らかい素材だったようで、一人抱えた状態でも骨が折れるような衝撃はなかった。
「
〔大丈夫?〕
〔なにがあったの?〕
俺の上に乗った悠から痛そうな声が聞こえるが、俺が下敷きになったから怪我らしい怪我はないはずだ。
視聴者からは、悠を心配する声が聞こえる。
「(大丈夫か?)」
「(あっ、うん)」
会話がカメラに拾われないように小声で話すと、悠は少し照れた様子で俺の上からどいた。
〔悠ちゃん、大丈夫?〕
〔カメラマン、驚きもしなくてヤバい〕
声を出さなかったことが逆に災いしたのか、悠を心配する声だけでなく
「みんな! 私は大丈夫だし、カメラ
〔よかった〕
〔カメラマン乙〕
悠から声がかかることで、視聴者の心配事が解決されたようで、一気に沈静化した。
しかし、参ったぞ。
どう考えても、ここは未探査領域だ。
事前に覚えておいたマップにも、ここら辺はただの森として登録されている。
すでに探索し尽くされた階層で新しい領域の発見は、それだけ稀有な話だ。
だから有名にもなれるし、アドチューバ―はこれが垂涎の状況だろうけど、それと同時に何が出てくるか分からない危険をはらんでいる。
今回は下へと落っこちたので、上階層よりもモンスターの力が強くなっている可能性がある。
「灯り点けるね」
ポケットに入れてあったスマホを取り出して、悠はライトをつけると周囲を照らし始めた。
ぐるりと一周照らすと、周囲の状況がすぐに分かった。
木のウロから落っこちた先はドーム状の穴になっていて、天井部からは無数の木の根っこが垂れ落ちていた。
「まずいな……嫌な予感しかしない」
これだけの巨大な空洞があるということは、
もしそうだとしたら、悠には荷が重すぎて対応できない。
「(悠、早くここから出よう)」
「(うっ、うん)」
とはいうものの、落ちてきた穴は天窓のように高さがある。
全力で悠を投げるのもいいが、あの穴を通る想像ができない。
「きゃぁっ!?」
叫び声に悠を見ると、そこには木の根っこに縛り上げられ宙づりになっている悠が居た。
「(しまった!)」
ルートワームばかりに気を取られ、地下ならではのモンスターの存在を忘れていた。
「
先ほどは根と称したが、実際は根なのかツタなのかどうかわからない。
本来は、ただ細い触手を伸ばし相手の動きを阻害する程度の力しかないのだが、ときおりこうしてレベルが上がったヴァインエンタングラーが発生して冒険者を縛り上げる。
縛り上げるだけなら良いのだが、一瞬一瞬が重要になる場面であったり、ヴァインエンタングラー自身が毒を出すタイプであれば話は変わってくる。
腰に携えていた金属ロッドを振りぬきざま、魔法詠唱をする。
「|翔ける風よ、対象を斬り裂ける力を我に与えよ《エレンシア・ヴェリス・カルシア・アエロカインド》!」
無風の穴倉に、突如として暴風が吹き荒れる。
だがこの暴風には意思があり、俺や縛り上げられた悠を傷つけることなくツタだけを切り裂きまわる。
「きゃっ!?」
縛り上げられていた悠は、支えがなくなると自由落下し地面に尻もちをついた。
あまり高く上げられていなかったはずだけど、支えるくらいしておいた方がよかっただろうか?
「
お尻をさすりながら立ち上がる悠に、肩を貸して急いで立ち上がらせる。
「怪我はないか?」
「うん。今のモンスターは?」
「ツタ系のモンスターだ。こっちではどうか知らんが、俺たちは
大系としてはそれほど変わらないだろうから、
風魔法のアエロカインドが効いたのか、件の
「俺が確認した動画じゃ、まだ
最近はコンスタントに収入が見込めるようになってきたので、軽い気持ちでネカフェに行けるようになった。
そこでお風呂と洗濯に加えて、次の階層やエリアの情報収集を行っている。
しかし、今回の情報収集した中でこのモンスターが出てくることはなかった。
「えぇと……。マップでは、ここは森になってるけど」
「なに?」
自力通信ができない俺のスマホでは地図が確認できないので、悠のスマホで現在地を確認させてもらうと、確かに言う通り地図上では森の中に立っていた。
他の地図が用意されていないというと――。
「未発見エリアか。面倒くさいことになったな」
落ちた時も思ったが、未発見エリアで確定だった。
俺一人なら未発見エリアを見つければ金になるので喜ぶところだが、今はレベルの低い悠も一緒だ。
危険が勝る。
「おじさん。その、ヴァイ――何とかっていうモンスター、そんなに強いの?」
「一本、一本は別に何ともないけど、木の根の数だけモンスターが居るようなもんだから、数で襲われると困ったことになる」
絞め殺されて堆肥になるのは、ごめんだ。
「えっ!? じゃぁ、モンスターに囲まれてるってこと!?」
「そうなるな」
カツンカツン、と手に持っている
「でも、俺の敵じゃないよ」
ヒュン、と
「
それと同時に、左手で魔法式を構築する。
「|水の力と風の守護により、身を守る盾を創造せよ《ヴァポリンクアント・ヴェリス・ガルタスト》!」
俺と悠を守るために、水と風で障壁を作りだす。
これで、高火力で
「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
それが叫び声なのか軋む音なのか分からないが、
悠を守るためにちょっと強めの炎を出したけど、これだけ燃やしたら地上の木々にも影響が出るのではないだろうか?
いやまぁ、それより悠が無事である方が優先だ。
「悠、大丈夫か?」
「…………」
安否を気遣うと、悠はぽけーっとした様子で俺を見ている。
「悠、どうした?」
「なに、今の?」
良かった。
何か、精神魔法での攻撃とか喰らったのかと思ったけど、別にそうではなかったらしい。
「ただの範囲魔法だよ。ちょっと張りきっちゃったけど」
俺が本気を出せば、イグノス・ヴォルカンは数十メートルの炎の壁として出すことができる。
おいおい、この程度の魔法で驚くだなんて、こっちの世界の魔法使いは気合が足りないんじゃないのか?
そんなことを思いながら、こちらの冒険者の中でも俺がトップレベルだということを再認識できて鼻が高くなってしまう。
「
「なんですって?」
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