階層ボスに挑む方法

 キラスタ――キラキラスリースターズの略――の存在というは、前回の動画で一気に、少しだけ有名になった。

 動画を公開し、さらには冒険者の登竜門とも呼ばれるスライム討伐であり、簡単な武具でできる動画であったためか、コンベア式スライム討伐方法は一気に拡散し似た動画を生み出した。


「はっぁあ!? なんだよ、『本当のコンベア式スライム討伐』ってぇ!? こっちは、俺たちと全く同じ動画を、さも自分たちが考えたように上げてんじゃん!?」


 悠たちが意気揚々と自分たちの動画が伸びていることを教えてくれたのだが、そこは俺も素直に嬉しかったのだが、それを上回る嬉しくないことが起きていた。


「まっ、それは仕方がないよ。ちょっとでも有名なところは、さらに有名になる方法を探しているから、人の手柄も平気で取ってくる奴だって居るしね」


 こういった行為はよく起きているようで、朱音は完全に諦めモードで話している。

 ちなみに、俺が内緒で投稿した素手でスライムのコアを抜き取るモツ抜きは、真似できる奴が少ないのか、似た動画が少なく、できた人間は全てキワモノ扱いされていた。


「次なる一手を考えないといけないな……」


 どのくらいになったら凄いの部類に入るのか未だによく分かっていないけど、キラキラスリースターズの動画登録者数はあの動画がきっかけで200人→300人に増えたらしい。

 どんどんと増えていけば動画での収入も増え、俺に支払える給料もさらに増えるという寸法だ。


 本来であれば自分で冒険者になってダンジョンを攻略するのが一番なのだが、後ろ盾となってくれる実家と連絡がつかないので、今はこうして動画を制作するほかあるまい。


「うちは、次はゴブリンに行ってみたいな!」

「ゴブリンか……」


 異世界アルセイバルでゴブリンと言えば、かなりの強敵だった。

 緑色の肌をした身長1メートルくらいのモンスター。尖った牙と爪を持ち、冒険者や民家から奪った武具を使い、群れで狩りをする知能を有している。


 もちろん、一体、一体の力は弱いので、こちらもスライムと同様に相手をナメてかからなければそれほど危険はない。

 しかし、初心者冒険者キラーと呼ばれているのは伊達ではなく、よく初心者冒険者たちのパーティーが壊滅したということを聞いた。


 特に恐ろしいのが繁殖能力だ。

 ゴブリンにはメスが生まれないので、母体は人間が使われることが多く、さらに一回の出産で5~6匹生まれて来て、最大で年に4回ほど出産させることができるらしい。


 無理な出産は母体に負担をかけて死なせてしまうのでめったにやらないらしいが、それでもできてしまうというのは脅威でしかない。

 そしてここからが本題で、このダンジョンに出現するゴブリンというのは魔力生成物系モンスターらしく、調べてみても女性冒険者がゴブリンを産み落としたという話はなかった。


 つまりこれは、ダンジョンが構造体ではなくモンスターの可能性があるということだ。

 それでもこれは低層階の話なので、もしかしたら深部には人間を苗床にするゴブリンが居る可能性があるので危険を軽視することはできないが……。


「いや、ゴブリンはまだみんなには早すぎる。ここは、ウッドウォークにしよう」


 「え~」と不満を口にする朱音だったが、悠と涼子の2人は、見た目は違えど二足歩行の人間と変わらない姿をしているゴブリンの討伐は少し腰が引けていたらしい。


「ウッドウォークの方が、硬くて難しいって聞いたとあるけど?」


 確かに、朱音が言うことも最もだった。

 それに、ウッドウォークは森の中に生息し、その森には他のもっと言ってしまえば件のゴブリンも生息しているので危険だ。


「柔らかくても、斬れば血や内臓が出てくるゴブリンはまだ3人には早いと思う」


 それでも朱音は不服そうだったが、悠と涼子は「うんうん」と力強く頷いている。


「ウッドウォークの討伐は良いんですけど、ここから森の方まで行くとなると結構、遠いと思うんですけど…‥」


 みんな、日中は高校生をやっているのでダンジョンに潜るのは学校帰りか、土日祝日のいずれかの全員が集まれる時だ。

 今日は平日の学校帰りに集まったので、ダンジョンの滞在時間は4時間程度しかない。


「安心してくれ。今日は一気に第三階層まで行って、ダンジョン内ダンジョンでウッドウォークを狩ろうと思う」

「一気に第三階層!?」

「あぁ、そうだ」


 悠がめちゃくちゃ驚いているが、俺は全く問題ないと思っている。

 キラスタのメンバーが今戦っているフィールドは、第一階層の出入り口近くの比較的どころではない超が付くほど安全地帯だ。

 それをまだ浅いとはいえ一気に第三階層まで行くのだから、心配になるのは当然だろう。


「すっげぇ! 私たちもついに階層ボス制覇する時が来たか!」

「まだ早い気がするけど、スライムも討伐したしやってみる価値はあり、だよね」

「腕が鳴ります」


 第一階層のボスは、動画でしか見たことがないが大きなスライムだった。

 一撃は思いが動きは遅く、すでにベルトコンベア式スライム討伐法で討伐もなされているので、今のキラスタのメンバーにとって敵ではない。

 では今、何が一番の敵かと言えば時間だ。


 一度のダンジョンの潜り時間が少ない3人にとって、時間がかかるレベリングは非常に困難だといえる。

 だから短時間でレベルを上げて深くに潜れるようになり、再生数を稼げるようにならなければ、俺の給料は今後、上がらなくなってしまう。


 レベルが上がり深くまで潜れるようになれば、それだけ見てくれる人も多くなるので広告収入も多くなり、魔石に関しても大きいものがとれるようになるから、それだけでもいい収入になるだろう。


「まずは、小さいスライムを集めることから始めよう」

「またスライムぅ!?」


 前回、延々とスライム討伐をし過ぎたためか、朱音が不満を口にした。


「今回は、難しいぞ。だって、小さいスライムを選別して、生きた状態で集めないといけないからな」

「生きた状態で捕まえることできるの?」

「できるし、簡単だ」


 悠からの質問に軽く答え、3人から見えない角度でアイテムボックスから、麻袋と木製のお玉を人数分取り出して渡す。


「これはいったい……」


 武器を渡されると思っていた涼子は拍子抜けした様子で、渡された麻袋とお玉を交互に見た。


「俺くらいの人間になればスライムごとき素手で問題はないが、みんなはまだまだ初心者だからお玉でスライムをすくって麻袋に集めるんだ」

「面倒くさそう……」

「よく分かったな。これは面倒くさい。でもな、これが誰も傷つかずにウッドウォークを倒せる一番の方法なんだ」


 この作戦の確信を突いてしまった朱音に、俺は本音で話した。

 これはある意味、楽ではあるが楽ではないからだ。



「オッス、みんな。前回はうちらキラキラスリースターズの動画をたくさん見てくれてありがとう。朱音だ」

「登録者数300人突破しました。ありがとうございます。悠です」

「次は400人突破を目指して頑張るぞ。涼子です」


 いつも通りの挨拶を済ませ、次のシーンへ移動する。


「今日は一気に第三階層まで来ました。今回、討伐するのはウッドウォークです」


 涼子が手で指した方にカメラを向けると、そこにはまだ歩いていない地面に根を下ろした状態のウッドウォークが居る。


「今回、私たちが使用する武器はこちらですね~」


 そう言いながら悠が麻袋を開け、中をカメラで覗くとウニョウニョと水晶玉くらいのスライムがたくさん蠢いていた。

 麻袋に20匹。それが3袋で計60匹のスライムがここにいる。


「前回はこのスライムの大きいものを最速で討伐できる仕組みを皆さんにお見せしましたが、今回はウッドウォークの討伐方法をお見せしたいと――」

「「「思いま~っす」」」


 悠の言葉に引き続き、最後は三人で声をそろえた。

 その声に刺激されたのか、ウッドウォーク立ち上がった。


「本当に大丈夫かな?」

「おじさんは行けるって言ったし」

「前回も行けたし、今回も大丈夫でしょ」


 未だに俺が言った作戦が信じられないのか、3人はまだやり方に迷いがあるようだ。

 いやそもそも、カメラマンは存在しないことにしてもらわないと、炎上する可能性があるからあまり台本にないことは言ってほしくなかった。


「んじゃ、討伐開始ッ!」


 朱音の号令と共に、麻袋にお玉を突っ込んで小さいスライムをすくい出す。

 そして、それを全力でウッドウォークに投げつけると、ぶつかったスライムはウッドウォークに攻撃されたと思い、スライムも攻撃を始める。


 スライムがどういった攻撃をするのかと言うと、樹皮の隙間に身を流し込んで、中で膨れ上がり樹皮をはがしていくのだ。

 ボコボコボコボコと際限なくスライムを投げつけ、一瞬のうちに麻袋からスライムが居なくなる。


 その代わりに、スライムだらけになったウッドウォークはすぐに樹皮が全てはがされ内部が丸見えになった。

 そしてすぐに倒れ魔石と化した。

 これにて討伐は完了となった。


 しかし、このままではキラスタ3人のレベルが上がらない。

 ウッドウォークは単体でもかなり、初心者冒険者にとって過酷な相手ではあるが、ウッドウォークの経験値を吸ったスライムが大量ならどうだろうか。

 答えは簡単。


「かわいそう……」


 誰が言ったか分からないが、ウッドウォークを倒した経験値を吸ったスライムは初めよりも大きくなってはいるが、女の子の足でもブチブチと潰すことができる大きさだ。


 初めは60匹居たスライムも、ウッドウォークを倒すころには20匹程度まで減り、それを潰し、彼女たちが経験値を貰う。

 つまり、ウッドウォークを20分の1にして倒したのだ。


「でも楽ではある」


 誰が言ったか分からないが、万感の思いがこもっていた。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

読んでいただき、ありがとうございます!

評価・♡・レビューをいただけると、やる気がアップするので、軽い気持ちで全然OKなので、どしどしお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る