アドベンチャーチューブ(通称アドツベ)
「や~っと金が手に入ったぜぇ」
ヒラヒラと4千円を持ってウキウキと歩く。
その時は、給料の少なさがあったけどここまで大変だとは思わなかった。
アルセイバルに飛ばされた初期こそお金を稼ぐのが大変だったけど、慣れたりレベルが上がれば強いモンスターを討伐したりなどしてお金を稼ぐことができたので、大変ではあったけど収入も良かった。
それがまさか、2千円を2回分、4千円をかせぐのがこれほど大変だったとは……。
しかしこれで俺もこの生活からおさらばできるというもんだ。
とりあえずコンビニでジュースを一本購入し、小銭を用意した後、コンビニの前にある公衆電話で実家に電話をする。
保証人さえ居ればダンジョンの免許取得のための講義を受けられるようになる。
久しぶり過ぎる実家への電話に、少しだけ緊張してしまう。
受話器の向こうから呼び出しの音が数コール聞こえると、ブツッと通話が開始した音が聞こえた。
「もしもし?」
「あっ、おれ。
電話の向こうから聞こえてきたのは、10年ぶりくらいに聞いた母の声だった。
少しだけ声が低くなったような気がするが、間違いようがない懐かしい声だった。
「久しぶりで悪いんだけど、そっちに帰る前にダンジョンで冒険者登録したくて、登録の保証人になってくれない?」
久しぶりに電話がかかってきたかと思うと、ダンジョンの保証人になって欲しいという電話だったとしたらどう思うだろうか?
いや、今まで物理的ではあるが何も言えない立場だったのだから、説明すればきっと…‥きっとわかってくれるはず。
「う~ん、4点。100点満点中ね。お前は雅貴じゃない。以上」
だが、世界は無常だった。
まだ話したいことがたくさんあったというのに、公衆電話君は受話器からプーという機械的な音を出す筐体になってしまった。
もう一度、かけなおすも今度は強めの口調で警察につなぐといわれ、泣く泣く諦めるしかなかった……。
□
「あ~……。そういうことか」
電話した後、そのままの足でネカフェに行き事情を探ると理由がすぐに出てきた。
ダンジョンができた日は、俺が
さらに、ダンジョン出現という災害で俺にかかっていた保険が支払われ、さらに未知の資源を生み出すダンジョンによって死んだことで国から見舞金も出ているらしい。
だから俺の名を騙ったり、彼女、嫁だの言ってすり寄ってくる奴が多かったようだ。
「仕方ない」と軽い気持ちではないが、とにかく今は目先の金なのですぐに気持ちを切り替え、動画の編集に入る。
先立って教えてもらっていた動画投稿サイト『
大体の動画時間が10分程度だったので、俺が撮影した2本の動画(粘液涼子とゴブリン殺し)をくっ付けてあげることにした。
それにしても、冒険者の登録者数が多い多い。
それに伴って内容も千差万別で、それらに比べたら俺が作った動画なんて素人も良いところだ。
しかし、それでも3人の内の誰が作ったか分からないが、エフェクトだとかの付け方は上手い方だと自負できる内容となっている。
カチカチと動画を流し見していくと、現在攻略されている一番、最深部は第20階層らしい。
一流の
それに、辛そうな叫び声と怒号が入り交じり、まさに阿鼻叫喚という言葉こそふさわしくなっている。
それでも完全に規制にまで至らないのは、これが一種のエンターテインメントとして成り立っているからかもしれない。
外貨を稼ぐためにも、これほど良いものはないだろう。
「スライムで手一杯になっている3人に、全く関係ない話だな――」
「ハハッ」と笑ったところでふと思い至ることがあった。
『このダンジョンの強さは、どう管理しているんだ?』と。
今、一番、先に進んでいる冒険者グループは『
それを見ていると明らかに一般的な人間の動きから逸脱している。
つまりこれば、モンスターを討伐することでレベルが上がり肉体が強化されていることの証左だろう。
そしてあれほど怪我人を出しながら攻略しているということは、
ならば、レベルさえ合っていれば悠・朱音・涼子の3人も深部で戦えることを意味している。
キラキラ系冒険者を、どうやれば最深部でも通用するようにできるかが問題ではあるが……。
□
「なぁ、これ見てみろよ」
岩場に腰掛けてスマホを見ていた
「どうかした?」
「なにか良い動画でも上がってたか?」
前回、現在攻略されている最深部の第20階層でかなり痛手を負ってしまったので、今は18階層でレベリング(と仮称している)の真っただ中だ。
19階層では余裕があまりないが、今の彼らでは18階層は少しだけ気を楽にできている。
そんな彼らがダンジョン内で
しかし、今回はたまたま最新動画として上がっていた動画が目に留まり見たところ、その面白い内容に気をひかれたのだ。
「スゴいなー。スライムってこんな風に倒せたんだ」
「おもろ。前半の動画だと1匹倒すのにも一苦労なのに、後半になるとスライム討伐RTAみたいになってんじゃん」
チームメイトがそれぞれ思ったことを口にするが、須藤が気になったのはそこではなかった。
それまでの動画を見てみると、定点であったり3人の内の誰かがカメラ役をしているのだが、今回の動画は誰か分からないが仲間が増えたことによって、今回のRTA染みたスライム討伐ができているようだった。
どこから見つけてきたか、それとも伝手があったのか分からないが、知将として優秀な人間をこの女の子たちは引っ張ってこれたようだ。
「ちょっと頼みがあるんだが」
「分かってる。みなまで言うな」
「それ、やりたいっていうんだろ?」
メンバーから考えていることを見透かされたが、須藤はニヤリと笑うだけで返した。
ちょうど第20階層の強力なモンスターがスライムで、そいつらか低階層のスライムとは違い刃が通らなくて困っていたところだった。
「真似してみよう」というのも無理からぬこと。
さらに追い風が吹くように、3人の初心者冒険者たちの動画を見て、スライム討伐の方法を真似た他の冒険者たちも同じく成功を収めているのを見て、須藤は確信めいたものを感じた。
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