第五話 クリスの脅威
「また、面白動物が増えるのか……」
『また……という言い方には、抗議したくなります』
自覚に欠ける
クリス・トリスタニアとかいう、もうひとりの
その青く光る眼は、冷ややかに俺たちを見下している。
その面倒臭そうなのはどんな風体だ? と輝石を透かして、奴を見た。
「あの……君はクリスちゃんと言ったっけ?」
『気安く呼んで頂きたくありませんわ? わたくしが新たなるトリスタニア家の栄光を掴み取る者……トリスタニア家第二令嬢クリス・トリスタニアです!』
「うん、それはわかったから。……一つ訊きたいのは、君はなぜ素っ裸なの?」
思わずガン見してしまったんだが……。
お風呂とかのシチュエーションでない限り、カーチェ様は普通に女子貴族院の制服姿なのに、何故かこの娘は素っ裸に見える。
正々堂々、モザイクも無しに全公開である。
『な……なぜ、その殿方がカーチェの輝石を持ってらっしゃるの?』
『あのね、クリス。……それ以外に、私がこの婦女子の敵と一緒にいる理由が無いでしょ?』
「い……いけません! わたくしを ご覧になっては……」
ああっ、そうでなくても不安定な場所で慌ててはいけない!
まして今は猫の体をしてるというのに……。
胸と下腹を隠そうとした
最後まで隠そうとするものだから、受け身も取れず、地面にまともに墜落した。
『残念……しぶとい奴ね。気を失っただけかぁ……』
様子を窺いに行ったカーチェ様が、舌打ちをなさった。
そして、何故か良い笑顔で俺を呼ぶ。
「何だよ……この上、猫まで飼わないぞ?」
『こんなのは放っておけば良いんです。 ……それより、ほら。女の子ですよぉ』
絶賛気絶中の
そんな事されたら、反射的に輝石を透かして見てしまうではないか!
……体型だけでなく、いろいろ子供なカーチェ様に対して、クリス姫はダイナマイトバディの女性らしい体型をしてる。
うん……いろいろな意味で大人の女そのもの。まだ、
『ちょうど良い機会ですから、納得いくまで観察して下さいね?』
なんか、いつもとカーチェ様の性格が違うような……。
相性が悪いタイプだろうと思っていたが、ここまでとは。
もうちょっと観察したかったのだけれど、クリス姫がパチンと目を開けた。
そして、真正面に俺を見て、手に持った輝石を見て、自分の取ってるポーズを見て……最後に、良い笑顔のポメラニアンを見た。
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
夕日に向かって猫まっしぐら。
ひとまず、クリス・トリスタニアの脅威は去ったのであった。
「ところでカーチェ様?」
『はい、何でしょう?』
今夜のカーチェ様は上機嫌である。
湯船の中では、バタフライ泳法まで披露し(犬なのに……)、湯上りには、せしめたどらも○ちを満足気に頬張っている。
「輝石を透かして見るカーチェ様は制服姿なのに、さっきのクリス姫はなぜ、全裸だったんだろうね? ……嬉しいけど」
『おそらく、自分のとカテジナのに加えて、私の奥義が軽くヒットしたのでしょう。
クリス自身の動物化、カテジナの
「わー、それは大変だー(棒)」
『どちらかというと、変態ですね。裸で街を駆けずり回って……』
俺の棒読み感想に、上手いこと仰る。
しょせん他人事と、素知らぬ顔でど○もっちを堪能。ご機嫌そのものだ。
『アレもその辺にいると解りましたし、いずれ嗅ぎつけて他の二人も来るでしょう。探す手間も省けて、一石二鳥ですね』
「ああ、あの性格のペルシャ猫は目立つだろうなぁ……」
『解りましたか? ああいうのを面白動物というのですよ? 私はまだまだ、その域にありません』
などと、湯船でバタフライ泳法を披露していた
充分、あなたも面白動物ですよ。
そんな穏やかな宵のひとときを、けたたましくブチ破ってくれる人が現れた。
『見つけたわよ、カーチェ! あなたは……よくも、よくも……』
上品に網戸を開け閉めしてから飛び込んできたのは、もちろん
身体に古新聞をぐるぐる巻きにした、さっきよりも愉快な姿でご登場だ。
『あらあら……クリスもすっかり、ホームレスが板についてしまって。トリスタニアの家名が泣きますよ』
『家名と貞操を秤にかければ、わたくしは貞操を選びます! だいたい、わたくしがこんな姿になったのも、あなたの奥義のせいでしょう!』
『良かったですね、クリス。自分の奥義を自分で受ける粗忽者で。猫の姿でなければ、もっと大変なことになっていたのに……』
『残念そうに言わないで下さいませ! そんな姿、殿方の目に晒せませんわ!』
『嫌だわ、クリス。……その方にさっき、しげしげと観察されてたじゃないですか?』
カーチェ様、煽るのは良いのですが、いきなりこっちに振らないで下さい。
ケバケバになった尻尾を真上に向けて、機械仕掛けのようにギギギと俺を振り向く。
思わず俺は、正座して頭を下げた。
「大変結構なものを、どうもありがとうございました。……おかげさまで堪能させていただきました」
シャム猫の悲鳴なんて珍しいものを、日に二回聞くとは思わなかった。
再びの猫まっしぐらで、網戸を突き破って出ていくかと頭を抱えてしまう。
だが、猫より犬の方が早かった。
好ダッシュでピシャリとガラス窓を閉じる
よりにもよって、サッシのアルミ部分にカミカゼアタックをかける
『本当にしぶとい奴ね。また、気を失っただけかぁ……』
また舌打ちしながら、至極残念そうに呟かれる。
そして、トコトコと二階に駆け上がると、俺の部屋から持ち出したマグネシウムライトを投げ渡してくれた。
何の躊躇もなく、舌を出したまま絶賛気絶中のシャム猫の古新聞を剥ぐ。
またしても、グイグイと両の後ろ脚を開かせて、尻尾を振る。
『ほらほらぁ……女の子ですよぉ』
カーチェ様、あんたは鬼か!
はい。そして俺は思春期の男子です。
「わ~、ライトで照らすと良く見える(棒)」
『滅多にない機会ですから、よーく観察して勉強しましょうね』
「はーい、カーチェ様先生……」
なんとなく学校的な雰囲気で誤魔化しつつ
清楚系優等生のカーチェ様のもう一つの顔と、女子の深淵(物理)を間近に学びながら
亀頭家の夜は更けていったのでした。
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