第4話 目撃例
「一応、宇宙人だというような報告例はあるようですけどね」
ほとんどにやけながら花村が言う。本気なのかからかっているのかなんとも微妙な表情だ。
「アメリカ軍が墜落したUFOから宇宙人らしきものの遺体も回収したとかですね、所謂ロズウェル事件ってやつですが、、、」
教授の冷ややかな視線を感じて、はっと言葉を止める。
「まあ都市伝説の領域は出ませんがね」
トーンが落ちる。
教授はいたって真面目なトーンで聞く。
「都市伝説というと、信ぴょう性に欠けるという意味かね?」
花村もかしこまって答える。
「そういうことです。所謂ロズウェル事件以降、それらしい機密文書だとかその手ものがそれこそ五万と出たんですが、それらはすべて、100%と言っていいでしょうがフェイクだったと解っています」
「信頼できる情報はほぼ皆無でしょう。さらにもともとのロズウェル事件も、当時の軍の機密情報を隠ぺいするために意図的に流されたかく乱情報だったとする説があります」
「結局詳細に調べてゆくと、UFOだとか宇宙人だとかが回収されたらしき、そんな証拠はもちろん根拠すら何もない」
「そもそもそんなややこしい話ですらなく、誰かが思い付きで言った与太話に尾ひれがついただけ、という解釈でも十分に説明できる。その程度の話です」
「なんだか、花村君にしては、つまらん話だな」
教授はからかうように言う。
「いえ、、、あまりふざけたことを言うのもなんだかあれかと思いまして、、、」
花村は当てが外れたのか口をとがらせる。
「宇宙人の目撃例なんてのもあるんだろう?」
教授はどこまで本気なのか花村に問う。
「あくまでも本人が言うには、という話では宇宙人の目撃例はいくらでもあります」
「しかしそれも結局は客観的には信ぴょう性に欠けます。本人がそう言っているだけだったりしますから。妄想か自己暗示か、もちろんただの嘘といっても何もおかしくありません」
「うーん、、、宇宙人にさらわれて身体を調べられたとか、さらには宇宙人と性交をして妊娠したとか、そんな話もあったね」
教授はとぼけて聞く。
花村はしばし考えて答える。
「それには面白い話がありまして。所謂退行催眠というやつがありまして。催眠術的なものなんですが、徐々に記憶を遡らせてゆくんです。そうすると例えば自分では覚えていない過去の記憶を呼び戻すことができるんです。例えば1歳とか2歳なんて幼少の記憶なんてことです」
「それで、退行催眠で、本人は覚えていない過去の記憶、それが宇宙人にさらわれて身体を調べられたとか、宇宙人と性交をして妊娠したとかといったことを喋り出す人がいるんですよ」
興味深く聞き入っている学生もいる。花村は少し調子が出てきているかもしれない。
「本人は覚えていない過去なんですが。でもそれで、なんと自分にはそんな過去があったのか!なんて妙な納得をしてしまう人もいて、またそれが事実なんだと思う人も多いんですが」
花村は大げさなジェスチャーを混ぜ始める。
「でも、、、それも信ぴょう性という意味では相当怪しい、まあ事実ではないでしょう」
「そもそも退行催眠で語られたことが事実とは限らないからです。例えば退行催眠で、5歳3歳2歳と徐々に遡ってゆくと、そののち前世までさかのぼり語り始めます。もちろん前世があるっていう話ではありません。アメリカ人の男性だとその多くの人が自分の前世はナポレオンだとかワシントンだとか、そんな偉人を言うそうです」
花村は気持ちよさそうに語る。
「おかしいですよね?複数の別の人の前世が皆同じ偉人、ナポレオンだとかワシントンだとかというのは。つまり、退行催眠時に語られる過去の記憶というのは、無意識下での妄想に過ぎないのです。それもかなりステレオタイプの貧弱な妄想です」
「ということは、宇宙人にさらわれて身体を調べられたとか、さらには宇宙人と性交をして妊娠したとかなんていう話は、それが事実を語っているとは言えない。相当に貧弱でステレオタイプの妄想と考えるのが妥当でしょう。きわめてありきたりですし、散々言われてきた都市伝説でしかありません。客観的な証拠ももちろん皆無なわけですし、、、」
大きく欠伸をする教授が目に入り、花村は話をやめる。
欠伸を終え教授はつぶやくようにいう。
「花村君にしては、つまらん話だな」
その時この場にいる学生の多くは同じこと思ったに違いない。
「あんたが言うかね」
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