第2話 架空の技術
「しかし教授。それでもそれは宇宙人が存在しないということにならないんではないではないでしょうか?たしかに存在して当然とはなりませんが、別段いたっておかしくない」
女子学生が発言する。この女子学生は谷川暁美という。
「では、宇宙人は存在するという前提で、その宇宙人はどこにいるんだろうか?」
鴨川教授はどこか嬉しそうに質問をする。
暁美は答える。
「それは、、、広い宇宙のどこか、としか言えませんが、、、」
「まあ、そういうことなんだが、、、、そうではなくて、例えば地球からの距離が、10万光年程度以内の惑星にいると思うかね?」
「10万光年、、、」
「まあ、例えばだ。宇宙の大きさは少なくとも138億光年はあるわけだ。10万光年なんてほんのお隣さんということになる」
学生たちは無言で考えている。教授は続ける。
「ちなみに、比較的地球から近いと考えられる閾値で360万パーセクというのがある。360万パーセクというのはおよそ1170万光年だ、、、」
ゼミは沈黙した。
「つまり、今の今、たまたま偶然に、文明の維持できる時間が重なった知的生命体が二つ以上存在するとしても、それがそんなに近い場所に偶然存在する可能性なんていかほどだろうか?」
「そして、その文明を維持できる時間が10万年程度だとすれば、その文明は10万光年先に到達できるんだろうか?」
教授はいたずらっぽく、頭を搔きつつ自問しているようなジェスチャーをする。
「つまりは。宇宙人が仮に存在したとしても、我々地球人と接触することは出来るんだろうか?」
「ワープ技術でしょうかね?」
いたずらっぽい口調で白衣の男が言う。助手の花村である。
「距離的な話をすれば、結局ワープ技術のようなものを想定するしかないでしょう」
教授は花村を見つめしばし考えた後にとぎれとぎれに言う。
「それは、都合のいい説明ということにしかならんだろう。結局宇宙人が存在し地球に来るためには、実現できるかどうもわからない架空の技術を想定せざるを得ない」
「そして、それは先ほどから言っている、今の今偶然に文明の維持できる時間が重なった知的生命体が二つ以上存在し、それがごく近い範囲に存在し、さらにはその上でなお、架空の技術が必要と、、、」
「そんな都合のいいことがある、その可能性ってのはいかほどなんだろうか?」
「では、、、」
またいたずらっぽい口調で花村は言う。
「宇宙人の存在、そして地球に到達しているという可能性は極めて低いということですかね?やっぱり」
教授は、頭を掻きつつ。
「いや、そういう結論を言っているつもりはないよ。宇宙人が存在し、そして地球に到達している可能性を考えるうえで、合理的に解釈しようという話のつもりなんだが」
「そもそもだ、、、」
教授は時計に目をやり、そろそろ切り上げようという算段のようだ。
「そもそも、宇宙人が存在し、地球に到達しているとして、そもそもだが、彼ら宇宙人は、どうやって我々地球人を発見したんだろうか?発見できるだろうか?」
花村は、微笑みを浮かべ何も答えない。
教授は続ける。
「おそらく宇宙人が地球人の存在を知るとすれば、電波ぐらいしか考えられない。違うだろうか?」
「そして、我々地球人が電波を使い始めてからどの程度経つんだろうか?せいぜい100年かその程度だろう?」
「であれば、宇宙人は、100光年かそこらの範囲でしか我々を発見できない。そんなごくごく狭い範囲に宇宙人が存在する、そんな偶然を想定するのは合理的かね?」
「それ以上広い範囲を、仮に10万光年の範囲なんて、全てくまなく調べるなんてことはそれこそ何か架空の技術を想定せざるを得ないだろう?」
教授はカバンを手に取り、
「今日はこのくらいにしておこう。また来週」
いつものことだが、あっけにとられ無言で学生たちは見送る。
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