鴨川ゼミの雑談

@blueOX

第1話 宇宙人

「我々人類、つまり地球人が現に存在しています」

学生は、至極当たり前のことを言った。その学生は山田という。

ここは、とある大学のゼミである。山田を含め学生が10人ほどいる。そして教授、白衣を着た助手の姿も見える。


いつか、教授が帰宅する際に誰かがちょっとした疑問、というよりもちょっとした世間話だったのかもしれないが話しかけたことがあり、それをきっかけになんとなく教授の帰宅前に雑談の時間というのが習慣になっていた。

教授も楽しんでいるようでもあり、学生も一人また一人と増え、助手も加わった。稀に他ゼミの教授や講師も加わることもあった。


その日のテーマは誰が言い出したのか「宇宙人」であった。


「現に地球人が存在しているというのは、この広い宇宙には同様の別の人類、つまり宇宙人が存在することの証拠と言えます」

山田は大袈裟なジェスチャーを伴いつつ続けて言う。

「むしろ宇宙人が存在しないという方が不自然なのです。存在して当然なのです」

どこか選挙演説のような、確信に満ちていつつも何か胡散臭い口調でもある。

それを微笑みつつ聞いていた教授が、口を開く。

「、、、確かに、宇宙人が存在してもそれは不自然ではない。しかし、存在して当然かというと、それはどうかな?」

教授は鴨川という。諭すような口調である。

山田は反論する。

「宇宙には無限の星が存在します。地球だけが例外的に唯一、ただ一つ知的生命体が生まれた、なんてことはあり得ないでしょう?地球人が存在する以上、同様の知的生命体、つまり宇宙人がいると考えるのが自然です」


「うーん。君が言う宇宙人の存在というのは、今の今。ということかね?」

教授はとぼけたように聞く。

山田は質問の真意がわからない。

「つまり時間的な問題だ」

鴨川教授は続ける。

「我々人類が、つまり地球人が、文明らしきものを得てからどの程度の時間が経過している?」

質問口調だが、答えを待つこともなく続ける。

「そうだな、1万5千年とかそんなもんだろう?石器時代ぐらいからだとしてもまあそんなもんだ。まあ2万年でも10万年でもたいした差ではない」

ここで教授は学生を一瞥する。鴨川教授は続ける。


「さて、我々人類が、地球人が、今後どの程度の時間この文明を維持できるか?」

ようやくここで教授は答えを待つ。学生たちは顔を見合わせている。

「これにはいくつもの意見がある。数千年で滅びるという人もいる。どうだろうね?数万年は持つかな?10万年はどうだろう?」

鴨川教授は学生の顔をいたずらっぽく覗きながら歩く。

「例えば、我々人類が滅ぶとすれば、何が原因だろう?」

教授は一人の女子学生を見つめる。

女子学生は戸惑いつつも答える。

「、、、環境問題でしょうか?」

「そうだな、それもあるだろう。他には?」

隣の学生に促す。

「戦争ですか?」

「他には?」

「疫病とか?」

「まあそんなところだろう。現実に我々は過去にそんなことで絶滅の危機に瀕したことが何度もある」

そこで、教授は未だ立ち上がったまま座るタイミングを逃している山田を見る。

「彼の疑問に答える必要がある」


「さて、大事な事実は、我々人類は過去に何度も絶滅の危機に瀕している。そして今後もそんな危機はいつ来てもおかしくないということだ、それが数千年先か、数万年先か、十万年先かはわからないが」

教授は立っている山田の後ろをゆっくりと往復している。

「仮に10万年としよう。我々人類が文明を継続できる時間だ。まあこれは100万年でも大差ないんだがね」

教授は足を止め、山田を見つめ質問をする。

「では、この宇宙は誕生から何年だね?」

山田は目を泳がせる。とっさには答えられない。

教授はまた歩き始め言う。

「138億年だ」


「138億年という宇宙の時間に対し、我々人類の歴史というのはごく短い。そうだろう?そしてだ、、、」

教授は間を置く。山田をまじまじと見る。

「君はさっき言ったね?我々人類、地球人が現に存在する以上、宇宙人がいてもおかしくないと?では、その宇宙人がその文明を維持できる時間も我々と同様10万年程度なんではないか?」

山田は目を泳がせ考えている。何か言おうとするが答えが出ない。

教授はゼミを見渡し指を一本突き出し問いかける。

「つまりだ、この宇宙の膨大な、138億年という時間に対し、ごく短い時間しか存在しない文明が、今の今同時に2つ以上存在しているという確率はどの程度なんだろうか?」

教授はゆっくりと自席へ戻り座る。

すっかり冷めたコーヒーを一口飲む。

「もちろん、彼の言う通り、宇宙人はいてもおかしくはない、、、でもそれは過去や未来も含めればの話だ。今の今という話であれば、地球人以外いなくても別段おかしくはない?そうじゃないかね?」

教授はいたずらな目をして話を終える。

立ったままだった山田は、未だ不満げな顔をしつつも席に座った。

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