7月
『るー、俺聞いてほしいことある』
『え、何気になる』
『まだ誰にも言ってないんだけどね?今日の夜話すわ』
『分かった。楽しみにしてるね』
私はそれだけのやり取りで話は女関係だという気がした。
「俺さ、いい感じの人いるんだ。」
女の勘ってすごい。私の勘は当たりだった。
「そんな気がした。出会いは?」
「友達に紹介された。」
「結構会ってるの?」
「ううん。一回だけ。」
「好きになった?」
「いや、なんか向こうから結構きてくれるんだよね。」
しんたろうくんと仲良くなって女関係の話を聞くことは初めてではなかった。そんな話を聞くたび、私は好きなのかを絶対に聞いた。しんたろうくんは毎回自分の気持ちを言うことはなかった。状況と相手の事だけ。なので、しんたろうくんが「好き」と言ったらそれは真剣なのだと思うようにしてた。
「それ何?そういう関係?」
「うーん。今は?これからってとこかな。」
もちろん傷つかないわけはない。でももう慣れた。私が知らない間に真剣に恋をして彼女ができるよりましだと思っていた。
「じゃあ、今までみたいに遊べなくなるね。」
誰から何を言われても気にせず遊んでいた私たち。でも、どちらかにいい感じの人ができた時は距離を置こう、そんな暗黙の了解があった。なぜかそこはお互いに真面目だった。
「んー、でもまあ、付き合ってるわけじゃないしな。」
「なんだそれ。しんたろうくんに彼女できたら私暇になるじゃん。」
「人を暇つぶしみたいに言って。彼女できるまでは遊んでやるって。」
「彼女できませんように。」
いつも通りの冗談めいた会話。でも私の気持ちは本物だった。
それからバイトの後、しんたろうくんはその子に会いに行くことが度々あった。そんなとき私は、バイトのほかの友達と遊び、気にしないように、気にしていない風にした。まるでしんたろうくんがいなくても楽しいよと言いたげに。それだけでなく、私は逃げ道を作るように、友達を飲みに誘い、男の人と関係を持った。最低な私のしんたろうくんへの対抗心だった。
これまでならしんたろうくんはそんな関係の人がいても長くは続かなかった。しかし今回は長かった。いや、もしかしたら長く感じていただけなのかもしれないけど。
「で、付き合った?」
しつこく私は毎回聞いた。しんたろうくんはその度、濁してあたかも付き合う前のように話してきた。自分から聞いたくせに苦しくなって、男の人に逃げた。そのことにとうとう耐え切れなくなってきた頃。いつも通り聞いてみると、
「ちょっとバイトの後話す。」
いつもはバイト中でもすぐ答えていたしんたろうくんが今回は違った。もしかして付き合った?いやそれならこのテンションで言わないか。私の脳内は同じような自問自答がぐるぐると回り続けた。
「俺さ、もう会ってないんだよね。」
バイトの後、心の準備をして聞こうとしていた時、しんたろうくんがすらっと言った。
「え?待って全然ついていけない。」
「いや結構会ってたんだけどさ。この前ちょっと真剣に話してね。」
そう言って全然詳しく言ってなかったしんたろうくんとその子のことを全部話してくれた。まとめると、その子は最初グイグイ来てて、しんたろうくんも付き合ってもいいと感じていた。しかし関係を続けていくうちに彼女の態度は変わっていった。だから自分から会うのはやめ、連絡も取っていない。そんな感じだった。
いつも私の準備ができる前にしんたろうくんは縁を切る。そして何もなかったかのように私に戻ってくる。戻ってくるという言い方は合っていないかもしれないけど、そういう感覚があった。しかし今回は準備をしなければいけないのかもと本気で思い始めていた。もう今まで通りには過ごせない、傷つく準備を。その矢先のことだった。
「今回は彼女できるかと真剣に思ってたのに。そんな感じだったんだ。」
「うん。まああっちがそんなんなら俺は追う気ないし。」
しんたろうくんの彼女できそうにないポイント。相手に合わせて自分の気持ちを出さず、終わりも相手に合わせる。だから私は心の片隅でいつも「どうせ付き合わないだろう」と思っていた。そんなことを思いながら、結局毎回気にして、揺さぶられて。今回なんか今までで一番怖かったのに。
「残念。可哀そうなしんたろうくんの相手を私がしてあげよう。」
「うわ、上から。しょうがない、相手になってあげよう。」
強気で言いながらも、心底安心した。また戻ってきた。私たちは体の関係もなければ恋人でもない。でもこうやって女と関係を切ったら私に戻ってくる。いつも通りだった。そのことが私にとって特別感を感じさせた。しんたろうくんにとって女としてではなくても特別だったんだとは思う。そして、逃げ道にもなっていたのだと。それでもよかった、私のそばにいてくれるなら。その日、私は男関係を全部切った。
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