6月

「るーちゃんとしんたろうさんって付き合ってるの?」

バイトの後みんなと集まることなく、毎回二人で遊び行っている私たちは、自然に周りとは違う距離感になっていった。バイトのみんなもそのことを知っていたため、そんなことを聞かれることが多くなった。

「付き合ってないよ。ただ仲いいだけ。」

「本当に何もない?」

「うん。お互い恋人いなくて暇だから遊びやすいだけ。」

私は決まってこう返していた。自分の気持ちがばれることが嫌というより、私が気持ちの面の発言をすることで、しんたろうくんも発言することになり、しんたろうくんの気持ちを言葉で知ることが怖かった。数人からそんな質問をされても、そのことはしんたろうくんに言うことはなかった。

ある日のバイト終わり。

「おなかすいた。何食べたい気分?」

「んー、今日は麺じゃないかな。」

私たちのバイト終わりは深夜。以前はご飯を食べに行くことなくずっとドライブするか、バイトの駐車場でしゃべるが多かったが、その頃は毎回ご飯を食べに行くようになっていた。

「この時間だと牛丼くらいしか開いてない?」

「初牛丼行っちゃう?」

「いいね、行こ。」

どこの牛丼屋さんにするか話し合った結果、決まったのは吉野家。注文を頼み待っていると、

「この頃さ、付き合ってない?って結構聞かれる。」

その話題に先に触れたのはしんたろうくんだった。答えに迷う。ここで間違えたら終わりな気がする。

「聞かれる。そんなに気になるかな?」

「まあ、毎回遊びに行ってたらそう思うよね。俺でも思うよ。」

「確かに、客観的に見たらそんなもんか。でもなんかさ、そんなのもったいなくない?」

「うん。わかる。男女だからって恋人かそういう関係かの発想しかないの理解できない。」

なかなか辛辣な現実だが、言いたいことはすごく共感。私の中ではしんたろうくんは好きな人。でも、関係は友達以上であり、男女ではなく、特別な、言葉で言い表すことができないものだったのだ。

「俺、るーともっと早く出会いたかったな。」

「それはどういう意味?」そう聞こうとして聞けなかった。傷つくことが怖かった。でも、言いたいことは、ニュアンスは伝わっていた。それからご飯が運ばれてきてもその話は続いた。

「やば、もうここにきて3時間経つよ。」

「本当だ。こんなとこで話す話じゃないよね。」

お客さんは私たちだけ。そう言って笑いながら、まだ話は続いた。自分たちの関係についてだけでこんなに話せることが、私が好きになった意味だと感じた。好きになって付き合えてなくても、頑張って距離を縮めて仲良くなれて、ここまで来たのだと感じた。

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