3月

それから少し経って。私は彼氏と別れた。きっかけはそう、あの時の飲み会。彼氏、今では元カレとは、前のバイト先で知り合った人で、時間があれば毎日会いたいと言ってくれる人だった。自分がシフトに入っていなかったり、退勤時間が違ったりしても、毎回家まで送ってくれていた。そんな彼に私は100パーセントの気持ちで向き合えない瞬間が増えていた。そんな状態からの飲み会だった。飲み会の後、もっとバイト先に馴染みたい、仲良くなってみたいと思った私と彼の気持ちはすれ違っていった。重なっている部分が多かった生活が徐々にずれていったのだ。自分から別れを切り出したくせに1年半も一緒にいて、沢山の時間や思い出を共有してたので、もう今までみたいに会えないとなると寂しくて仕方なかった。

「じゃあ今日はドリンクつくってみよっか。・・・あ、待ってね、ごめんやっぱりレジお願いできる?」

その日のバイトリーダーは飲み会にもいた同じ年のしんたろうくん。飲み会までは顔もわからなかったけど、その後からシフトで会えば喋るようになったのだ。何よりりんくんの中学からの友達らしく、しんたろうくんは喫煙者ではないが、りんくんとたばこを吸う時についてくるようになったのだ。

「あ、うん。わかった。」

自分の気持ちに精一杯だった私は、しんたろうくんからの指示を何も考えず、ポジションに入った。

出勤して30分。

「るー、俺と一緒に休憩行こ。」

もう休憩?はやいな。まあいっか。慣れてきたといってもまだ休憩の時に狭い事務所にいるのは苦手だった。すぐに上着をとり、タバコとスマホだけを持つと、出入り口から裏道に出た。タバコを吸いながら元カレからの連絡を見ていると、

「るーはや。俺にも一本ちょうだい。」

「え、吸う人?いいけど。」

「もらいタバコは喫煙に入りません。」

しんたろうくんがタバコを吸う姿を見るのは初めてだった。今まではりんくんについてきても吸わずに喋るだけだった。そんなことを思っていると、

「るー彼氏となんかあった?」

え、私しんたろうくんに何か話してたっけ。

「この前、りんとあみさんと話してるのちょっと聞いちゃって。今日本当はレジからの予定じゃなかったんだけど、元気ないのかなって思ったからさ。」

そう言ってしんたろうくんは吸い終わっても、私の隣で一緒に体操座りをして居てくれた。結局その日、私は何も話さず俯いていただけだった。話せたのは後日。またもや一緒に行った休憩で、その時しんたろうくんはタバコを吸わず、ずっと私の話を聞いてくれた。


今思えば、それがしんたろうくんとの始まりだった。初めからしんたろうくんは何も言わずにそばにいて話を聞いてくれる人だった。励ますのではなく、寄り添ってくれる人だった。心地のいい人だった。

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