第15話

 一瞬にしてこの場の支配者となった僕はゆっくりと歩きだし、ラミィの方へと近づいていく。


「……血が、動かせない……ッ!?」

 

 僕からの血の圧力を受け、アスカたちが動けなくなる中。

 なんとか僕による圧力の影響を弱めたおかげで少しは自由の利くラミィが僕から血の支配権を奪おうとするのだが、その目論見は失敗する。

 ラミィは一切僕から血の支配権を奪えなかったのだ。


「既にここら一帯の血はすべて僕の支配下。何があっても僕から支配権は奪えないよ」


「……お兄、様ッ!どういうつもりですかッ!!!」

 

 地面に倒れこむラミィへと近づく中で。

 アスカの横を通り抜けようとした僕の足をアスカは掴み、口を開ける。


「安心してよ。僕は一切出血していないから……ここにあったのを利用したまでだしね」


 僕は必至の形相で訴えかけてくるアスカに対して僕はズレた回答を返す。


「そうい……ッ!?」


「しー、ね?」

 

 アスカへの圧力を強め、これ以上口を開けないようにしてあげる。


「……私の、醜い復讐は止める、と?」


 そんな中で。

 僕が意図的に圧力を弱めにしていたことによって話すことくらいな出来るサレリア様が口を開く。


「すみません。サレリア様……ですが、申し訳ないですが、サレリア様単独での復讐の完遂は不可能です。自分が、終わらせてしまっても良いでしょう?」


「……えぇ、そうね」

 

 僕は俯いたままのサレリア様の言葉に対して自分の言葉を返し、それに対してサレリア様も頷く。

 そして、サレリア様はそれから多くを語ることはなかった。


「終わらせる……終わらせる?お兄ちゃんが?優柔不断なお兄ちゃんが何かを終わらせることなんて出来やしない……ッ!」」

 

 僕の言葉に対して噛みついてくるラミィ。


「ここはヴァンパイアたちのお墓。人間どもが当たり前のように幅を利かせているのはちょっとどうかと思ったからね」

 

 だが、そんなラミィを放置して僕はアスカたち四人への言葉を続ける。


「……特にアスカ。僕はこの世界が好きなんだ。だから、僕の好きな世界を任せちゃうね」


「……お兄、様ッ!!!」


 アスカは強くなった。

 ミリア様たちと言った心強い友達も出来た。

 フランクロ王国の国王陛下は栄明な賢王であり、強力な力を持ったアスカを放置したりしないだろうし、あの人ならこの世界を良くしてくれるだろう。


「……あぁ、もうお役御免だ」

 

 僕がもう、この世界に止まる理由はない。

 異世界より転生し、村を守れず、復讐すら果たせずにただ彷徨うだけであった僕は次世代を作り出す希望の芽を作り出せたんだ。

 もう十分だろう。


「『持ちあがれ』」

 

 僕は血を操作し、アスカたち四人を宙に浮かせる。


「何を、するつもりなの……?」

 

 急に動き出した僕に対して首を傾げ、その意図が読めずに困惑しながら……それでもなお、ほんのわずかばかりの希望と喜びの表情を見せるラミィが僕へと疑問の声を上げる。


「こうするつもりなの」


 僕は腕を一振り。

 それだけでラミィの立っていた場所より先の土地が一瞬にして崩れ去り、ラミィの体が宙へと放り出される。

 すべての血の支配権を僕へと奪われるラミィは地の翼を展開し、自由に空を駆け抜けることも出来ず、ただただ落ちていく。


「……お兄ちゃんッ!」

 

 一瞬にしてその表情が絶望に染まり、瞳を潤ませだしたラミィは僕の名を叫び、手を伸ばすのだった。

 

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