第11話
ヴァンパイアの墓。
かつて、世界を席巻し、世界に旋風を巻き起こしたヴァンパイアたちの起源はたった一つのイレギュラーであった。
とある大国の実験に使われ、通常では考えられないような屈辱と辱め、苦痛と憎悪を植え付けられた小国に住まう人間たちが最悪の形で変異し、誕生したのがヴァンパイアである。
死者であり生者。
自らの復讐を完遂するまでは成仏するのことの出来ぬ生きた死者。
それこそがヴァンパイアであり、どのような激痛にも耐え、憎悪のままに力を振るったヴァンパイアは人類に大きな災禍を振りまき、とある大国を滅ぼすまでに至った。
「ヴァンパイアの墓。ここを除いて最後に残ったヴァンパイアの系統たる僕とラミィがぶつかる場はないだろう」
自らを苦しめたとある大国を滅ぼし、自らの復讐を完遂した多くのヴァンパイアはここで身投げした。
強大な力を持っていたあまたのヴァンパイアがここで死した結果。
この土地は一瞬にして変わった。
何もなかった崖の下には巨大な赤い液体の湖が出来上がり、その頭上には謎の土地が空に浮かぶ形で出来上がり、この地に入るのにはヴァンパイアと同じ血を操る力が必要となった。
「やっぱりそうだよね、お兄ちゃん。必ずここに来ると思っていた。下の湖に落ちれば死してなお消えることなかった赤き液体に私たちヴァンパイアに連なる者はその存在に呑まれ、二度とそこから上がってくることが出来なくなる。実質的に永遠の封印。私を無力化するならここしかなく……それはお兄ちゃんも同様」
「互いに復讐が完遂されていない僕らが命を削り合うにはここの他にない」
ラミィが血の霧を展開し、僕の前に立つ。
濃密な殺気がこの場を支配し、圧倒的な力が吹き荒れる。
「「「……ッ」」」
ラミィの力に気おされるミリア様たち三人。
「……」
そして、戦闘態勢に入ったラミィを迎え撃つため、同じく戦闘態勢へと入ろうとした僕を。
「駄目ですよ?お兄様」
アスカがやんわりと止める。
「お兄様が戦う必要はありません……お兄様はずっと痛い思いはせず私の隣で笑っていればいいのです。お兄様の障害はすべて私が取り除きますから」
僕に向かってそう告げるアスカは何もないところから聖剣を取り出し、僕の代わりにラミィの前に立ちふさがる。
「お兄様を守るのは私です」
「……泥棒猫風情がァ!」
「それはこちらのセリフですよ?既にテメェの時代は終わってんだよ」
アスカとラミィ。
僕の妹二人が僕の前で殺気をぶつけ合うのだった。
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