第3話
ハイエンドを覆っていた血の霧が晴れてより一週間。
ようやく僕の謹慎は正式に解かれ、自由の身となった。
「お久しぶりにございます。国王陛下」
ようやく自由に外出できる身となった僕は早速と言わんばかりに国王陛下に呼びつけられ、王城へと登城していた。
「うむ。息災そうで何よりである」
僕が国王陛下に呼ばれてやってきた応接の間。
そこにいるのは僕と国王陛下だけであり、近衛兵すらいない。
本当に二人きり、平民と二人きりになった国王陛下などこの国の歴史の中でも初めてなのではないだろうか?
この状況下で僕と二人きりになった国王陛下の胆力に舌を巻きつつ、僕は国王陛下の評価を上方修正する。
設定上は賢王とされていたが、ゲームでは最後まで輝くことのなかった王は僕が王妃陛下を治したこともあってか、その聡明さを取り戻したように見える。
「このまま世間話へと突入してもいいが、私と君とで前哨戦を行っても意味はないだろう……このまま、本題へと入ろうではないか」
「はい」
「単刀直入に問おう。君の目的は何だね?君も気づいていただろうが、私の密偵が君の生活を見張っていた……そこで君は実の妹であるラミィと暮らしたことも知っている。君はラミィを殺さず共に暮らし、だが別れた。君の目的は何かね?」
「目的、と?」
「あぁ。そうだ。ラミィとアスカ。どちらを取るというのかね?」
「ラミィを取ると答えるのであれば私はここにいませんよ……現在の情勢下において貴方の命はさほど重要ではない。こんなところになど来ずさっさと別の場所で己が力を振るいますよ」
「確かにその通りではあるな。では、何故ラミィを捨てるというのかね?」
「世界を滅ぼすなどと宣うラミィの味方など出来るはずもないでしょう?僕にも少ないながらの友がおり、彼ら、彼女らを守りたいと気持ちもあるのです」
「ふむ」
「ですが、僕は結局のところ自分の愛する家族への愛情を捨てることも出来なければ……そして。現代の社会を守る必要性も感じていません」
「……で、あろうな」
「スラムで暮らしていた僕は誰よりもこの世界の異質さとゆがみを理解している……こんな社会。守る価値などないでしょう?」
「……」
僕の言葉に一瞬だけ。
国王陛下は視線を下げる……僕がそう言うだけの理由を、理解しているのだろう。
「ですが、きっと守る価値あるものになると思っていますよ。カミア様たちも優しいですし、国王陛下も賢王と呼ばれるに相応しいお方だ」
僕はゆっくりと席を立ちあがる。
「ご心配なく。私は裏切りませんよ。この社会を守り、そこに生きる人を守って見せます……未来が明るいことを信じて」
「ふふっ。君からそう言われるのは嬉しいな……信頼はないかもしれぬが、任せてくれて構わない。時間を取ってすまなかったな。君の心内を聞けて良かった」
「私もあなたが未来を託せる英傑であることが知れて良かったです」
これで迷いは晴れた。
「それでは失礼いたしました」
「うむ」
することが定まった僕は国王陛下へと頭を下げ、この場を後とすることにする。
「あぁ、そういえば。結局のところ目的を言っていなかったですね……僕は自分の終わり場所を探しているだけですよ」
去り際に。
僕は己の目的を最後に呟き、この場を出るのだった。
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