第15話
僕が紅茶を汲んで戻ってきた後。
その場は直ぐにお開きとなり、部屋には僕とアスカだけが取り残された。
「お兄様」
「ん?何?」
共にソファに並んで座り、ダラダラとお菓子をつつく僕たち。
僕へとその身を寄りかからせるアスカが僕を呼び、それに僕が答える。
「お兄様はミリア様と婚約なさいますか?」
「……どうだろうね。僕の立場は、そこまで盤石じゃない。必要となる、可能性もあるかも」
「……」
僕の答えを聞いたアスカはずいっと身を乗り出し、僕の顔と自分の顔を至近距離にまで近づけながら口を開く。
「でしたらこの国を離れませんか?」
「……えっ?」
「お兄様の立場が悪くなるこの国にいる必要は……いや、そもそもこの世界の人間と関わる必要なんてないじゃないですか。私たち二人で十分……お母様も」
「そう、だね」
僕はアスカの言葉に躊躇いながらも頷く。
「私たち二人で人が来ることない辺境の地、深い森林の中、山奥……ただ二人だけの人気のないどこかに世界を作りませんか?私たちであれば問題なく二人でも生活出来ます」
「……」
アスカの、申し出は良く考えてみれば実に妥当なものだろう。
僕がこの国にこだわる理由も、アスカがこの国にこだわる理由もない。
既にアスカの身を蝕む病もなく、自由の身。
圧倒的なチート性能を誇る僕とアスカであればこの世界でただ二人となっても自由に何も問題なく生きていくことが出来るだろう。
「……」
だが、それでも僕はアスカの申し出を了承することは出来なかった。
そっと顔をそむけた僕から……何かを察したかのようにアスカも離れ、彼女は深々とソファに腰掛ける。
「……妹」
「……ッ!?」
一瞬だけ。
感じたこともないような強く、心の底から震え上がるような冷たい殺気を感じ、僕は身構える。
「……ラミィの、せいですか?」
勘違いだったのだろうか?
その殺気は一瞬だけでその後は感じられず、何も変わらずにいるアスカが僕に言葉を問いかけてくる。
「そ、そう、だね……どうしても、僕の中でラミィを無視するという選択肢は」
「実の妹であったとはいえ、犯罪者です。どうするつもりですか?」
僕の言葉にアスカは食いつくようにして追及の言葉を述べる。
「決着はつけるよ。僕はラミィにこの国を荒すのを許すつもりも……多くの人に災禍を齎すようなことも許さないよ」
「殺す、と?」
「……あぁ」
僕はアスカの言葉へと静かに頷く。
ヴァンパイアの血を引く者など、僕を含めてこの世界にいない方が良いだろう。
生かす、世界を。いや、人でも、亜人でも、生物でも。
……。
…………殺す他、ないだろう。
それが最良の策であろうとなかろうと。手は、いくつか考えつく。
「人が誰もいない場所、か……いいかもね」
僕はぼそりと。
アスカの方にも視線を向けず、一人呟いた。
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