第6話

 下水道内にむせ返るような濃い血が漂い、相反する二つの血が相争い、この世界の支配権を奪い合う。

 そんな中で。


「ひどいなぁ、お兄ちゃん……実の妹に向かって誰、だなんて。ふふっ、薄情だなぁー、もう!嫌になっちゃう」


 僕とアレマしかいなかったはずの下水道。

 そこに響いた新しい声。

 その声の主が僕の前に何の躊躇もなく姿を現して、いたずらっ子のような笑みを浮かべながら口を開く。


「……え?……いや、そん、な」

 

 僕は自分の前に現れた少女の姿を見て驚愕に目を見開き、体を震わせながら小さく言葉を漏らす。

 信じられない。

 

 己が前に立っているその少女。

 僕と同じような鳥の濡れ羽毛のように漆黒の髪に血のように鮮血な輝きを持つ深紅の右目。

 そして、僕の何もかもが抜け落ちたような白い瞳たる左目とは対照的にどこまでも黒く、何もかもが混ざったかのような黒い瞳の左目を持った少女。

 

「……ラミィ」

 

 目の前に現れた少女。

 あぁ、彼女の見た目に僕は強い既視感を持っていた。


「ふふっ。良かったぁ。ちゃんとラミィのこと、覚えていてくれたんだね。嬉しい!!」

 

 彼女は、この子は、僕の妹は……あの日ッ!

 僕が何も出来ずただただ村が焼かれる様をただ眺めるだけしか出来なかったあの日に、死んだはずの僕の実の妹。

 

 ラミィ。

 僕の前に立っているその少女は僕にとって血を分けた兄妹であり、必ず守ると誓っていたはずの愛する妹であった。


「……生きて、たんだ」

 

 何故。

 そんな気持ちがある。

 だが、それ以上に僕の中で安堵と喜びが広がる。


「わわっ!?泣いちゃうほどなの!?お兄ちゃん!?」

 

 僕の瞳からゆっくりと涙が流れ……それを見たラミィが動揺の声を上げる。


「……いや、まさか生きているとは、思ってなくて」

 

 止めようと思っても止まることのない涙を流しながら僕はラミィの言葉に対して僕も言葉を返す。


「ふへへ。ラミィが生きていたことでそんなにお兄ちゃんに喜んでもらえると憂いなぁ。でもね?そんな感傷に浸っている暇はないよ?──だって、お兄ちゃんは私の部下の誘いを断ったんだから」

 

 とうの昔に奪われていた世界の支配権。

 僕が空気中に広げていたその血が全てをラミィに浸食され、いつしかこの場にはラミィの血しか漂っていない。


「ふふっ。みんなのことを忘れて……偽りの妹なんかと家族ごっこしているお兄ちゃんにはお仕置きが必要だよね!」

 

 僕と同じダンピールであるラミィはこの場にある血を操り、僕の体を切り刻む。


「二度とラミィに逆らえないようにして……さぁ、一緒に家に帰ろ?」

 

 だが、それでも一瞬で再生し、元へと戻る僕を前に対してラミィは満面の笑みを浮かべながらその鮮血を振るうのだった。

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