第5話

 明確に殺意を見せ、攻撃態勢を入った僕を見たアレマは驚愕に目を見開き、声を漏らす。


「そうか、そうか……お前は、堕ちたのか」


「……」


「醜い権力の豚どもに……なぁ、本当に、駄目なのか?お前が、お前がいるだけで何もかもが変わるんだ。勝利も、容易い」

 

 一度拒絶されてもなお、アレマは名残惜しそうに口を開く。


「幾度言われようとも僕の立場は変わらないよ」


 だが、そんなアレマの言葉を僕は否定する。


「ならッ!」


 その返答を聞いたアレマはすぐさま戦闘態勢に自分の意識を切り替えると、素早く地面を蹴って一瞬にして僕の背後へと回る。


「ここで死ねッ!!!」

 

 背後へと回ったアレマは僕の首筋に向かっていつの間にかその手に握られていた一振りの巨大な鎌を振り下ろす。


「……君じゃ無理だ」

 

 アレマのその鎌は容易く僕の首を斬り落とす。

 だがしかし、それだけで僕は倒れるほど柔ではない。


「わかっ……ッ!?」

 

 ダンピールである僕は首を落とされただけで死ぬことはない。

 そんなこと、アレマは百も承知であろう。

 だからこそ、その攻撃の手を緩めることなく一太刀、二太刀、三太刀。

 あぁ……でも、足らないのだ。

 絶望的に足らない、足らなすぎる……この程度で僕は倒れられないのだ。

 

「呑み込め、血の津波よ」

 

 僕は己の目の前で足掻くアレマの体を押しつぶすようにして膨大な量の血でもってその体を押し流し、壁へと叩きつける。


「……ガァッ!」


 圧倒的な血の量に押しつぶされ、動けずにいるアレマの方へとゆっくりと僕は足を向け、ゆっくりと近づいていく。


「これで、終わり……君じゃ僕には敵わない。僕はね、他者の前で全力で戦ってことがないんだ。誰も、信じられなかったから」

 

 アレマの前に立った僕は何もすることなくただ彼の頬を撫でる。


「……ッ」


「どれだけ足掻き、どれだけ藻掻こうとも敵わないんだ、君では」

 

 抜け出すこともかなわず血の波に呑まれ、息の方も徐々に限界を迎えつつあるアレマの前に僕は立ち尽くし、何もすることなく彼をただ眺める。



「……あぁ、駄目だよ。お兄ちゃん」



 そんなときであった。

 僕とアレマしかいなかったはずのこの場に別の声が響いたのは。


「……ッ!?」

 

「ッ!?はぁ、はぁ……」


 そして、強引に僕が操っていた血の波の支配権が奪われ、一瞬にして散らされる。

 そのことによってアレマが解放され、彼はその場に崩れ落ちる。 

 僕は、己が操っていた血の支配権を手放してなどいない。

 

「……誰?」


 僕は自由の身になったアレマには目も向けず、自分の方へと向かってくる何者かの気配に向かって口を開くのだった。

 

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