第4話
地面をぶち抜き、下水道へと降り立った僕。
「やぁ、久しぶり」
そんな己の前に立っている自分と同年代の男の子へと僕は手を挙げて挨拶の言葉を口にする。
「あぁ、久しぶりだな……ロマルス」
僕がアル・レテンに所属するよりも前。
村を焼かれ、行き先もなく、ただただ復讐心にのみ身を焦がされて彷徨い歩いて辿り着いたスラム出来た……最初の友だち。
共にアル・レテンへと入り、僕が逃げるようにしてアル・レテンから脱するまで常に共に行動していた男、アレマ。
「アレマも幹部に昇進したんだね、おめでとう」
大規模な襲撃を指揮する者の座を与えられるまでに成長した己が友へと僕は激励の言葉を投げかける。
「ちょうど幹部の枠が空いたときにね。もう幹部になってから数年。今では君の立場を超えたよ?」
「……そう」
僕はそう話すアレマの言葉を適当に受け流す。
「さてはて」
旧知の中。
というより、かつての親友と言ってもいい男を前にする僕は己の血を展開をすることなく、ただ影より取り出した剣だけを構える。
「まぁ、待てよ。その前に話をしないか?」
そんな僕へとアレマは自然体で声をかけてくる。
「……何?このまま帰ってくれるの?」
僕は剣を構えたままアレマの言葉に返答する。
「おかしいと思わないか?理不尽だと思わないか?」
だが、アレマはそんな僕の言葉を無視して勝手に自分の考えを話し続ける。
「この世界は間違っている。世界のほんの一部、全体の人口の百分の一にも満たない数千人がこの世の何もかもを持ち、その数千人のために全世界の人間が奴隷のように働き、明日の希望すら見えない日々を送っている」
「……」
「数千人だけが富み、その他何百万を超えるすべての人が生きるか死ぬかの日々を生きる。そんな世界が、正しいはずがない。あんな何もせず、ただ自由奔放に楽しく生きる蛆虫どものためにこの世界があるわけがない。あっていいわけがない」
「……」
実に、その通りだろう。
この世界の構図は地球における中世の封建社会、身分制社会よりも遥かに醜悪で、遥かに歪だ。
「俺はそんな世界を変えて見せる。あぁ!俺は、俺たちは!世界をあるべき形に戻するために!今よりもより良く、より多くの人が幸せに暮らせる世界を作るため、今!ここに立っているッ!!!共に来てくれ、ロマルス!お前がいればこの世界を掌握することなんて簡単だッ!簡単なんだッ!共に、新しい世界を作ろう!理想郷は言えぬまでも……それでも、今よりもより良き世界を……なぁ、実に簡単な作業だろう?何をしたって、この世界よりもマシなのだから」
もし、この世界に政府がなくなり、世紀末の世界になったとしても。
確かに今の世界よりはマシだろう。
今、世界の上に立ち、世界をより良くするなど簡単だろう。
なにせ元の世界がひどすぎるのだから。
アレマはここに理想論を掲げて立っているのではなく、確かな現実を見て立っている。
だがしかし、だから何だと言うのだ。
「……あぁ、確かにその通りだ。数千人の為に全世界の人間が常に死と隣り合わせながら奉仕し、搾取され続ける社会など間違っているだろう」
自分の腕に広がる血管が破裂し、皮膚を突き破って外へと噴き出し血へ霧へと変わり、下水道に薄く広がっていく。
「でも、今の僕は数千人のうちの一人だ」
剣を握り、振るう。
何をしなくとも己の思うがままにこの場を支配する我が血。
戦闘準備など少し血を展開するだけで十二分だ。
「やろうか」
僕は視線を下げたまま、殺気を込めて言葉を漏らすのだった。
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