第27話
王妃陛下を治療したダンピールの存在。
それは既に凝り固まっていた上流階級の社会へと少なくない衝撃と混乱をもたらした。
その影響がいかほどのものか……それを図るのは難しいだろう。
「し、失礼します……お父様」
「よく来たな。ミリア」
何せ、王妃が病に倒れたことで聡明さが失われていた眠れる賢王が完全に目覚めたのだから……かのダンピールによって。
偉大な賢王の存在は時として歴史を大きく変える。
「まずは謝罪を。これまで苦難に立たされていたお前に手を伸べずに放置していてすまない」
「い、いえいえ!お父様が謝ることではありません!……それで?何の用でしょうか?」
「ふむ……前置きなしでいきなり本題に入ろうか。まずは問おう。ロマルスをどう見る?」
「……ッ。ぜ、善人であることには間違いないです!どこか自虐的で、自分を顧みることのない隔絶した危うさを持ってはいるものの、基本的な根っこ小市民の心優しき少年であることには間違いないです!!!で、ですからどうか!処刑だけは!」
国王よりロマルスの評価を問われたミリアは慌てたように口を開き、彼のことを擁護する。
「案ずるな。ロマルスを潰すことはせぬ……そんなつまらぬことを、な。あれは世界すらも変え得る存在よ」
かつて血の災厄と恐れられ、人類災厄となった血の民たるヴァンパイア。
フランクロ王国の国王にして世界随一の頭脳を持つ男、ロレオ・フランクロはかつてのヴァンパイアの強さと現代のヴァンパイアの弱さが理由を知った。
現在のヴァンパイアは脆弱であり、いともたやすくヴァンパイア最後の村と言われていた場所を焼き討ちにすることは出来た……その際の抵抗はなし。
人類に対して脆弱な姿を晒すことしか出来ずに滅んで行った現代のヴァンパイアの姿を見て、何故かつて、血の民として恐れられるにまで人類を殺し続け、災厄をまき散らせたのかと疑問に思い、その答えがロレオとてわかっていなかったのだ。
だが、その答えは実に当然の話であったのだ。
自らの皮膚が裂かれ、血肉がすりつぶされ、全身がバラバラになる激痛をその身に刻みこまれながらの戦闘など誰が出来ようか?
ヴァンパイアの基礎スペックは間違いなく最強なれど、その強さを手にするまでの精神的な苦痛は常軌を逸し、物事を不可能とする。
感情を持たぬ玩具、よっぽどの狂人、すべてを投げうった復讐者。
怪物でなければ血の民成り得ない。
国王は知った。
怪物となった血の民を……その強さを。
「ところでミリアよ。ロマルスを異性として好いておるか?」
「は、はわぁ!?」
「好いているのあれば婚約させよう……あの男は何としても我が家に取り込まなくてはならない。あれは危険であるが、最高の切り札足り得る」
「……ッ」
本物のヴァンパイア。
血の民の災禍、能力を真近で見て感じたロレオは心底楽しそうに、心底獰猛な笑みを浮かべるのだった。
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