第21話

 僕は何事もなく順調に商売を行っていたはずだったのだ。

 問題など何も起こさず、妹の病気を完治させるためのお金を積み上げる日々……だったはずなのだ。


「どうか、うちの妻を治してくれないだろうか。ロマルスくん」

 

 それなのになぜ……何故なんだ?

 何故僕は今、アレイストル辺境伯閣下から奥さんを治してほしいという殺人級の依頼をされているのだろうか?

 もはやこの人は僕を恨んでいるんじゃないかと疑うほどだ。


「じ、自分はマッサージ店の店主ですのでぇ……」


「君に言われ、病院に言ったのだ……だが、医者からは治せぬと断言されたのだ。私の妻を治せるのはもう、君しかいないのだ」


「……あ、あ、アレイストル辺境伯閣下の事情も理解出来ますがぁ」


「何が欲しい?何があれば妻を治してもらえる?」


「わ、私はスラム出身のダンピールにございます。スラム生まれの者がアレイストル辺境伯夫人を治療し……万が一、失敗したときに責任を取ることが難しく、またダンピールであることも致命的なのです」


 僕は声を震わせながらとりあえず依頼を断ろうと足掻く。


「既に私の立場は危ういのです。アレイストル辺境伯閣下に近づくため、故意に夫人へと病を齎したと悪名がつく可能性もあります。それに加えて、王都内で何か病魔が流行った際、医者でも治せない病を謎の方法で治した私が病魔を流行らせた原因なのではないかと疑われる可能性もございます……私の立場は、弱いのです」


 地球で言う魔女裁判。

 かつて、圧倒的な感染力で人類の大半を蝕み、人口を半分にしたとまで言われる赤死病が流行った際も、多くのヴァンパイアが地球で言う魔女のような立場に追いやられ、多数が殺されている。

 処刑されたダンピールとして歴史に名を刻みたくはない。


「……それは承知している」

 

 僕の言葉を受け、アレイストル辺境伯閣下は眉を顰めながらも口を開く。


「だが、それでも私は君に頼みたい。例え、治療が失敗しようとも君を責めることはないと約束するし、何かあった際には全力で君を守ると誓おう。それに謝礼であればいくらでもする。頼まれてはくれないだろうか?」

 

 だが、それでもアレイストル辺境伯閣下は僕へと頭を下げて依頼を口にする。


「承知、致しました……」

 

 事情を伝え、それでもお願いされて断ることなど僕に出来るはずがない。

 僕は内心ガクブルに震え、失禁しそうになりながらもアレイストル辺境伯閣下の言葉に頷くのだった……なんでこの国の医者はあんな簡単な病気も治せねぇんだよぉ!!!

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