第18話

 スラムの家はただテーブルが一つにアスカ用の布団が一枚置かれただけの簡素な家であった。


「……なんか、寂しいな」

 

 一階部分のインテリアはミリア様たちが予め用意してくれていたが、二階部分にあるのはキッチンとそれに伴う調理器具だけでその他の家具は何もない……ミリア様たち的には僕が既にある程度の愛用している家具を持っていると想定だったのだろう。

 

 だがしかし、実際のところ持っている家具など二つだけ。

 ビビるほど広い二階部分に家具を二つだけ……実に寂しい光景となっていた。


「何を言っているのですか?お兄様……一切汚れも破損もなく、美しい木の木目。これだけ質の良い材料で作られた建物なんですよ?床、壁、天井……これだけで十分。全然寂しくなんてありません」


「ハイエンドに住む人間に鼻で笑われるぞ」


「常に嘲笑され、見下される側の人間ですよ?私たちは……何を今更でしょうか」


「それはそう」

 

 僕はアスカの言葉に頷く。


「でも、いつまでも家具なしというわけにもいかないでしょ……良い感じにお金稼がないとな」


「……そうですね。お兄様をいつまでも床に寝かせるわけにもいかないんですし……私も、お金を稼げるようになれれば良いのですが……」


「アスカはいてくれるだけで良いんだけどね……アスカもどんどん体良くなっているから、いずれは働けるようになるよ。その時はよろしくね?」


「はい!」


「それはそれとして家具だけど……やっぱり一番はベッドだよなぁ」


「そうですね。私とお兄様が二人で寝れるだけのベッドが欲しいです」


「え?ベッドは二つで良いんじゃない?もうアスカもいい歳だし」


「ダメです、一緒に寝るんです」


「まぁ、アスカがそう望むなら良いけど。じゃあ、ダブルのベッドか」


「ダブルだと高いですし、シングルで良いんじゃないですか?大きめのだったら二人でも寝れるでしょうし」


「うーん、そうか……まぁ、金が入ってから決めれば良いかな。ここでどうこう考えても今、お金に余裕があるし……うし、夕食作るか。今日は引っ越してきたお祝いということでノーエンスの方で食料を買ってきたからそれを食べていこうか」


「おぉ!久しぶりのまともな食事ですね!楽しみにしてます、お兄様!」


「うん、任せて」

 

 アスカを連れてミリア様たちが作ってくれた家へと引っ越してきた初日。

 僕はキッチンに立ち、慣れない多くの道具たちに苦戦しながらも夕食を作っていくのだった。

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