第16話

 ミリア様にカミア様、サレリア様から懇意にされている僕ではあるが、彼女たちは遥か上位の王侯貴族であり、当然彼女たちの周りには多くの生徒が集まっている。

 学園内で僕が彼女たち三人と過ごすことはほぼない。


「……次の授業、実技かぁ」

 

 なので、僕は基本的に唯一の友人であるリリシアと一緒に過ごしていることが多かった。


「実技は嫌だよねぇ……自分たちの実力に関わらず忖度する必要があるし」


「リリシアは僕よりもマシでしょ……僕とかもっとひどいからね?ヴァンパイアの血を引くダンピールたる僕は基本的に負けれないんだよぉ。負けの演技が辛い」


「確かに、いつも大変そうだね。四肢が吹き飛んでも実質無傷だもんね」


「そうそう……これで痛覚がなかったら良いんだけどなぁ」


「……え?ちょっと待って?あれ、普通に痛覚あるの?」

 

 僕の言葉に対してリリシアが動揺しながら困惑の子を漏らす。


「普通にあるよ?普通に四肢が吹き飛ぶ激痛を味わい、首が吹き飛ぶ激痛を味わい、腹を貫かれる激痛を味わい……それでもなお当たり前のように回復して戦闘を続行するのがヴァンパイアだよ」


「そ、それ……大丈夫なの?」 

 

 僕の言葉に対して本気で心配するような声を上げるリリシア。


「ヴァンパイアは痛みに強い……というか、戦っていると慣れてきちゃうから。激痛なんて所詮痛みでしかないからね」


「うん。何を言っているのかわからないわ」

 

 そんな彼を安心させるために僕は口を開いたのが、僕の言葉を聞いたリリシアは少しばかりの呆れと恐れを見せる。

 僕はそれに対して苦笑しながら肩をすくめるだけで返す。

 ……でも確かに体がぐちゃぐちゃになることに慣れたってよくよく考えなくともヤバいな。常人ではない。


「でも、これで実技の授業における僕の大変さがわかるでしょ?絶対に勝ってはいけない、幾度も四肢を引きちぎられ、激痛に身を苛まれながら虐められ、向こうがもう良いだろうと満足するまで戦い続ける僕の大変さが」

 

 別に痛いのには慣れているが、それでも率先して痛みを求めているわけではない。

 僕にとって実技の授業は地味に嫌な拷問授業となっているのだ。


「……本当に大変なんだね。私なんてまだまだ全然大変でもなかったわ」


「まぁ、リリシアもちゃんと大変だとは思うけどね?……結局身分の低い僕らは地面を這いつくばり、最底辺を生きるしかないんだよ」


「一応、私は王子なんだけどなぁ……急にエルフの国の立場が上がらないかな?」


 確かに他国の王族が身分低いとは妙な状況である……よくよく考えてみればヴァンパイアに連なる者の最後の生き残りである僕は吸血鬼の王を名乗れる可能性が微レ存。


「もし上がったら僕を助けてくれ」


「もちろん。私の大切な友達なんだ……助けるに決まっているさ」


「ありがとうなんやでー」

 

 僕とリリシアは軽口をたたき合いながら、実技の授業が行われるグラウンドの方へと向かった。

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