第10話

 カミア様はゲームに描かれていた通り、目立ちたがり屋のやべぇ奴であるが、その心は優しい少女であった。

 スラムの現状を聞いて心を痛めてくれる心優しき人である。

 まぁ、カミア様の感想程度がこの世界に与える影響なんてないんだけど……それでも僕への扱いはきっと良くなるよね!


「自分が何が出来るのか、ですか?」

 

 カミア様から昼食を奢ってもらった僕はその後、美しいもの大好き少女ことラミルス侯爵家の長女、サレリア・ラミルスのお誘いを受け、空き教室へとやってきていた。

 空き教室で二人……いきなりサレリア様から呼び出された僕は疑問の声を上げる。


「えぇ、そうよ。あなた、ダンピールなのよね?伝承にのみ語られるヴァンパイアのハーフの」


「まぁ、そうですね」


 サレリア様の言葉に頷く。


「スラムの人間がこの学園に入学し、あまつさえマッサージなどの高度な技術を得ているなんて普通ではないでしょう?他にも出来ることがあるんじゃないかと思って……ヴァンパイア特有の。私はあなたのことが知りたいの」

 

 サレリア様は純粋な好奇心を前面に押し出しながら楽しそうに疑問の声を口にする。


「その他ですか?一番は病気の治療などでしょうか?ヴァンパイアは病気のスペシャリストですから」


 ヴァンパイアはウイルスや病原菌のスペシャリストであり、手術なども血を用いることで可能だ。


「病気?」


「えぇ……とはいえ、スラムの人間に病気の治療を頼む者もいないでしょうからここでは無駄な技術ですけど。ここに来る前の自分はノーエンスの重病人を治すことで日銭を得ていたんですよ」


「……病気、病気。あなた、死血病を知っているかしら?」

 

 好奇心を前面に押し出していたサレリア様の楽し気な様子は何処へやら。

 急に雰囲気が真面目になったサレリア様が疑問の声を上げる。


「え?まぁ、知っていますよ」

 

 僕は急に真面目な顔つきになったサレリア様の言葉に頷く。


「……それを治すことは出来るかしら?」


「問題なくできますよ?」

  

 ……なんでサレリア様は死血病について聞きたがっているんだろうか。


「ほんと!?私の妹が、死血病に罹っているの……な、治せるのであれば!治してくれないかしら!?」

 

 真剣な表情で悲痛な叫び声を上げながら僕へと頼みを告げるサレリア様。

 だが、僕はそんな彼女に困惑することしかできない。


「え?なんで死血病にかかっている人がいるの?どういうこと?……多分、それ死血病じゃないと思うんですが……」 


 死血病。

 それは血中に存在するありとあらゆるものが死に絶え、文字通り血が死ぬ病……いや、病と呼ぶには少々微妙か。


 死血病とは、ヴァンパイアが齎す災厄。

 ヴァンパイアが自身の体内で作れる特殊なウイルスを他者に注入することで罹る病。

 それこそが死血病なのである。


 既にこの世界には僕しかヴァンパイアの血を引く者は存在しない。

 僕が死血病に罹らせることがない限り絶対罹るはずのない病なんだけど……なんでサレリア様の妹さんがそんな病を?

 当然僕は罹らせていないのだが。

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