第9話
カフェテリアに置かれている数多くの席の一角に。
ご飯を奢ってもらった僕は座っていた……僕の座っている椅子の代金だけで一体どれだけ僕と妹が暮らせるのか……よ、汚すわけにはいかない、なぁ。
「そういえば、自己紹介をしておらぬかったな。我はカミア・ローエンス。ローエンス侯爵家の長女である。気軽にカミアと呼ぶが良い」
フランクロ王国における軍事の頂点、元帥の立場にあるローエンス侯爵家当主の娘。
それがカミア・ローエンスである。
「私の自己紹介は必要でしょうか?」
「いや、朝聞いたから良い。さて、自己紹介も済ませたところだ。早く頂こうか」
「……頂きます」
僕はその言葉を受け、手を合わせてご飯を口に含む……二日ぶりの飯!!!まともな食事はいつぶりだろうか!
「……良い食べっぷりであるな。普段は、何を食べているんだ?」
「決してカミア様に言えるようなものではありません……スラムだと普通の食材を手に入れることすら難しいですので」
スラムの人間のメイン食料はそこらへんの雑草と虫や小動物である。
そもそも店なんてものが存在しないのだ。
「……そこまで、スラムは酷いのか?」
「想像以上に酷いですよ。そもそもの話、ノーエンスですら酷いですから。道端に幾つも死体が転がっていますし、貧困にあえでいる人も多いですよ」
「……そ、それよりもスラムは?」
「はい。それでもノーエンスの人間は人の遺体へと喰らいつくことはありませんからまだマシです。スラムだと人の屍に人々が群がり、蠅がたかる前の屍肉を貪りますから。母が泣きながら自分が腹を痛めて産んだ我が子を喰らうなんてこともあります」
「……ッ、そ、それ……はぁ」
「ノーエンスでは経済活動が行われていますが、スラムではそもそも経済活動が行われていませんから。ほとんど人間が文無しの職なし。レイプされた女性が地面に転がって子をただ一人で子を産み、生まれた子が息絶えた母の屍肉で育つことが多々ある……そんな世界がスラムですよ」
この世界の人間は魔法がある影響なのか、神によって作られたからなのか。
魔法など無くとも地球人よりは幾らか頑丈で、劣悪な状況でもある程度子供が産めてしまうし、運が良ければ赤ん坊も生き残れてしまう。
故にスラムはなくならない。
苦しみは、永遠と残り続ける。
「そう、なのか……そうか。そうなのか」
僕の話を聞いたカミア様は目の前の食事にも手を付けず、呆然としている。
貴族の人は意外にも市井の生活を知らない人が多い。
カミア様は下々の民の生活を初めて聞いたのかも知れない……初めて聞かせる話にしては少し刺激が強すぎたかも。
僕はそんなことを考えながらカミア様が奢ってくれたご飯を一心不乱に食べ進めるのだった。
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