第2話

 学園の廊下でいきなり言い合いをはじめ、天井を突き破ってド派手に登場したヤバい奴が参戦したこともあって完全に周りからの注目をガッツリと掴んで視線を集めていた三人。

 その三人からミリア・フランクロは少し大きな声を一つ上げるだけでその注目をすべて奪って見せた。

 

 黄金のように輝く髪を靡かせ、心に染みわたっていくようなどこか落ち着く美声を響かせて歩く彼女は一挙手一投足まですべてが品に満ち溢れている。

 ミリア・フランクロはただ存在するだけで男、女関わらすべてを見惚れさせるだけの魅力を持っていた。


「……ロマルス?」


「え?誰?」


「そんな貴族いたか?」


「……もしかして?」

 

 そんな彼女だからこそ、僕が彼女に目をかけられているというのが他の人たちにバレるのは非常に不味い。

 少女の口から出てきた『ロマルス』という名前にざわめく周りの生徒たちの言葉を聞いて僕は眉を顰める。

 

「さ、流石は莫大な財を持って作られた学園……壁まで豪華だ」

 

 僕は少女へと背を向け、学園の壁へと視線を向ける。


「ちょ!無視しないで、ロマルス!」

 

 逃げる僕。

 追う少女。


「……」

 

 僕はこの場から立ち去ろうと早歩きをはじめ、それを少女が全力疾走で追いかけてくる……ッ!!!ここで僕が走ったら自白してい、いや!?でも……ッ!


「逃げなくても良いじゃない」

 

 僕が悩んでいる間にどのような手を使ったのか、距離を一瞬で詰めてきた少女は僕の肩を掴み、強引に僕の態勢を変えて無理やり自分の方へと僕の視線を向けさせる……反応できなかったんですけど。


「……何さ」

 

 少女によって態勢を崩されたせいで深々と被っていた制服のフードが取れ、素顔が晒されてしまった僕は嫌々ながらも口を開く。

 オッドアイって目立つからあまり顔出したくなかったんだけど。

 もー、最悪だ。


「……」


「……」


「……」


 王女様と薄汚いスラムの餓鬼との邂逅を前にして全員が黙り込み、沈黙が降りる中。

 少女が僕に向かって口を開く。


「何さ、じゃないわよ……一緒に戦った中なんだし、む、無視することはないじゃない……」


「今、話題の王女様とスラム出身でしかない僕がこうして向き合って話をしているってだけで問題になりそうなのですが……主に自分が」


「そう……それよ。あなた、何をしたの?王宮での扱いが急に変わり、お爺様が私に会いに来た……突然よ」


「そんなにおかしな話でもないでしょう。もとより後ろ盾がいなかったミリア様の状況がおかしかったのです」


「……お爺様は王宮より離れた辺境の地で国境部の守りについていたわ。私は別に愚かというわけじゃないのよ?そんな説明で私が納得すると思って?」


「……お許しを」

 

 僕は少女の前に立ちながらどう立ち回るかを頭の中で考える。

 うーん。ことここに至ってはもう諦めて少女と協力しようかなぁ。

 

 本当は少女と関わらず、ゲームに出てこないモブを相手に商売しようと思っていたんだけど、ここまで王女であるミリア・フランクロから友好的に扱われているスラムの餓鬼を周りの人間が認めるわけないよねぇ。

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