第16話

 僕の前に立つ実に面倒な相手であるミレイユ。

 後ろに無防備な少女を抱えて彼と事を構える以上、僕はある程度全力でやらなければならないだろう。

 一息で僕との距離を詰めてきたミレイユは僕に向けて自分の手にある一振りの剣を振り下ろす。


「ほっ」

  

 それに対して、腐食魔法でミレイユの持つ剣どころか、彼がその全身に仕込んでいる隠し武器のすべてを崩壊させた僕は彼の拳に向けて自分の拳を突き出す。

 拳の次は互いの足と足がぶつかり、その次は魔法。

 魔法によって生み出された僕の炎とミレイユの風がぶつかり、どこまでも燃え盛る業火へとその姿を変える。


「『潰れろ』」

 

 そんな最中、ミレイユが彼の一族秘伝の魔法である重力魔法を発動。

 何もかもを押しつぶす強大な重力が僕を襲い、逆にそれを利用する形で僕はその力に従って自分の体を崩壊させる。

 肉体から膨大な血液の流れへと姿を変えた僕はそのまま部屋全体を覆うように散布する。


「『ブラッドレイ』」


 圧倒的な暴力を一つ。


「お、おぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 部屋全体を覆い尽くす大量の僕の血液から閃光を飛ばし、ミレイユの体を守る結界を貫き、破壊する。


「抜刀術、一閃」

 

 空気中に散布していた血液を再び一つと戻り、人の姿となった僕は腰に構える刀の柄を掴み、一歩。


「……ッ!!!」

 

 ただ刀を抜き、ただ斬る。

 単純明快でシンプルな一刀。

 だからこそ最も難しく、奥義とも言える抜刀術でもってミレイユへと迫った僕は大慌てで防御しようと構えたミレイユの両腕を斬り落とす。


「……ぐっ」

 

 両腕を斬り落とされたミレイユは眉を顰めながら地面を蹴り、僕から距離を取る。


「まだやる?」

 

 刀をただの血液へと戻し、そのまま地面に落ちて水溜りとなった己の血の上に立つ僕は両腕を絶たれ、血を流すミレイユへと声をかける。


「……けけけ。やはり錆びついちゃいねぇか。いや、むしろどんどん洗練されていっていやがる。いいねぇ」

 

 ミレイユは流れ続ける血にも、両腕を絶たれたことで感じているであろう激痛に対しても何の反応を見せず、ただただ僕のことを眺めながら笑みを浮かべる。


「また、テメェがこっちへと落ちてくることを待っているぜぇ」

 

 そして、告げるのは悪魔のような囁きである。


「もう二度はない」


「けけけ。部下にはもうお前とその王女様、ミリアを襲わないように言いつけておく。二人で仲良く帰るといい……またな、我らが幹部が一人、金色のヴァンパイアくん?」


「……じゃあね、永遠に」

 

 僕は最大限顔を顰めながらミレイユへと背を向けた。

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