第15話

 台座が一つ、部屋の中心に置かれていること以外は何もないただ広い部屋。

 僕の背後にある台座の上で呆然としている少女から向けられる視線を浴びながら、僕はアル・レテンの頭領たるミレイユと向き合う。

 ミレイユと少女、そして僕以外は誰もいないこの部屋の中で、楽しそうにミレイユが口を開く。


「けけけ。こうしてお前が俺の前に立ちふさがるんだったら、あの時。ヴァンパイアの住まう村を焼かれ、同じ村に住まう同胞も、友も、家族も……その何もかもを人々の手に焼かれ、天涯孤独の身となったお前をその友と共に拾うんじゃなかったぜ」


「僕がアル・レテンに在籍していた数年で莫大な利益を生んであげたでしょ。それと今回のこれを比べて見てもそれでもまだ組織的には得なのだからそれは許して……あと、昔のことを言うな。黒歴史だ」


 僕は、どこまでもロマルスなのだ。

 生まれたときから、赤ん坊の頃から……ロマルスとして生を受け、この世界を生きてきた。

 

 ゲームでロマルスの幼少期は知っていた。

 自分の生まれ故郷であり、この世界に唯一存在するヴァンパイアの住まう村を人間たちに焼かれ、友も家族もすべてを焼かれ、それでもたまたま生き残ったロマルスは人間への強い憎悪を懐き、それが故に人類に強い憎しみを抱く悪魔となった、と。

 僕はそう知っていたのだ。


 あぁ……だからこそ、そんな未来を変えようと僕は動いた。

 だが、無駄であった。

 僕はどこまで行っても無力で、どうしようもない堕落者で、何も守れぬ愚か者であった。


 己の無力さがゆえに何も出来ずにただただ自分の村を、友を、家族を焼かれるのを眺め、村を焼いた人間共への復讐もくだらぬ己の心の弱さが故に出来ず。

 僕はただ、生きた屍のように、世界を彷徨うだけ。


「俺は期待していたんだぜぇ?齢一桁にして俺らの組織で活躍していたお前の未来を」


「その点に関してはごめんだけどね……でも、僕には少々荷が重かったみたいだよ」

 

 僕はミレイユの言葉に対して肩をすくめながら否定する。


「けけけ……んで?テメェはまた繰り返すのか?自分を拾ってくれた女が残した餓鬼を守るんだろう?」


「僕とて一生スラムで過ごすつもりはないからね。未来のための布石だよ」


「さよか」


「それで?どうする?僕としてはこのまま何事もなく帰してほしいのだけど」


「テメェが敵に回っている以上依頼の完遂は無理……さも当然のように雑魚共の手で攫われたテメェだが、その能力に衰えがあるどころか、年々その牙は磨かれている……けけけ。どれだけ優位な状況を作り出してもそう本気で事を構えるとなれば少々被害が大きすぎる……依頼は諦めるしかねぇだろう」


 既にミレイユはこの場で手を引き、僕を大人しく引き下がるべきであろう。

 

「が、久しぶりに遊ぼや」

 

 だが、理性だけでは動かぬ獣のような男なのだ、ミレイユは。

 ミレイユは一振りの剣を抜き、獰猛な笑みを浮かべて僕へと粘つくようなドロドロとした殺気を向けてくるのだった。

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