第14話

 止まない雨はない。

 明けない夜はない。

 

 しかし、だからと言って辛い今が緩和されるわけではない。


 今、止んでいない雨から身を守るために傘を。

 今、明けていない夜から逃れるために飛行機を。

 

『僕は、ロマルスが死ぬことはない!永遠に!決して終わらないッ!!!』

 

 自分の前に差し出された救いの手に縋ることは悪だろうか?


『僕が君のせいで死ぬことはない!君は決して僕にとっての凶星ではない!』


 逃げることは、他者にただ救いを求めることは悪だろうか?


『君と共に食べた料理は美味しかった!君との日々はそこまで悪いものではなかったッ!!!』


 救いを求めぬ人はいないだろうか?

 嫌なことから逃げることを求めぬ人はいないだろうか?

 一人では何も出来ない脆弱な種族たる人間がそう簡単に自分へと向けられた救いの手を跳ねのけられるだろうか?


『君が死んで良いものか!君にも幸せになる権利がある!君も生きて良いんだ!』


 闇の底へと落ちていたミリアはほぼ反射的に差し伸べられた救いの手に縋る。


『……良かった』


 さて。

 初めて自身に伸ばされた手を盲目的に信じ、愛することは悪だろうか?

 肝心な時に差し伸べられない救いに価値はあるだろうか?

 

 ミリアは光を見て、闇から引きずり上げられた。


 ■■■■■


 精神干渉魔法。

 他者の精神を闇に落とし、徐々に蝕んでいくことでその精神を殺す。

 精神干渉魔法の中でも凶悪とされる『闇夜の繭』。

 外法の魔法に囚われていたミリアを僕が強引に引き上げる。


「流石はヴァンパイアと言ったところか……魔法でもねぇのに人の精神を支配するのがうめぇ。どうやって精神に取り入っているんだが」

 

 そんな僕の様子を見て声を上げる男が一人。


「……少し、待ってて」

 

 無事に巨人を倒し、アル・レテンのトップであるミレイユに連れ去られた少女を助けるため、僕は自分の前に立ちふさがってきたアル・レテンの構成員を軒並み叩きのめし、ミレイユと少女の二人だけしかいなかった部屋へと強襲を仕掛けていた。


「ったく。面倒なことをしてくれたなぁ。せっかくの依頼がこなせねぇ」


「僕が一緒に攫われてきた段階でもう依頼の達成は諦めていたでしょ?」

 

 完全に堕ち切る前に助けたものの、闇夜の繭に囚われ、著しく精神を消耗している少女をその場に置き、僕はミレイユの方へと視線を向ける。


「けけけ。まぁ、そうだな……精神を殺し、器にしろって命令をヴァンパイアの血を引くオメェが居て達成するのは不可能にちけぇな」


「近いじゃなくて、不可能だよ」

 

 僕はミレイユの言葉を否定しながら彼の元へと近づき、彼のすぐ目の前へと立つ。


「くくく……言うじゃねぇか。相変わらずその自信満々な態度は変わっていないようでうれしいぜぇ?久しぶりだなぁ、ロマルスぅ?」


「うん、久しぶりだね。ミレイユ」

 

 出来れば二度と再会したくはなかったミレイユへと僕は再会の挨拶を口にした。

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