第9話
アル・レテンの統領。
その男はかつてはとある大国の公爵家の次期当主であったのだが、無残にも権力闘争に敗れ、裏の世界へと落ちてきたという経緯を持っている。
一度はどん底にまで叩き落とされたが、それでも裏社会で頭角を現し、世界各国の重鎮とのコネクションを積み上げ、ついには 自分の生家を没落させられうほどの権力と暴力を持った世界唯一の犯罪組織であるアル・レテンの頂点にまで上り詰めた男、ミレイユ。
「あんッ!?餓鬼二人逃しただァ!?テメェらは何していやがったッ!!!」
確実に攫ってきたはずのフランクロ王国の第二王女たちが失踪したとの情報は直ぐにアル・レテンの本拠地中に駆け巡り、大騒動となっていた。
アル・レテンの統領であるミレイユはフルボッコにされて地面を転がっている阿保二人。
事件を自分たちだけで内密に解決させようとした阿保二人を叩きのめしながら怒りを露わにして叫ぶ。
「どうなっていやがるッ!あの女は細かな実力の制御を出来ぬはずだろうがッ!なんで逃げられ、あまつさえ未だ見つかってもいねぇ!共に攫ってきた餓鬼の方の情報を持っている奴はいねぇのか!」
殺気を滲ませながら叫ぶミレイユは沈黙し、顔を俯かせる幹部たちを威圧し続ける。
「ミレイユ様。誘拐してきた実行部隊を連れて来ました」
そんな最中。
ミレイユ並びに幹部たちが揃っていた部屋に五人の男たちを連れたアル・レテンのNO.2、ロンドが入室してくる。
「おう。そうか……んで?わかってんのか?オメェは。自分で連れてきた餓鬼のことよぉ」
ロンドの連れてきたフランクロ王国の第二王女誘拐の実行部隊の班長であった男を睨みつけながらミレイユは口を開く。
「そ、それがわかりません!学園の制服を着ていたことから良いところの坊ちゃんだとは思うのですが、うちの情報の中に俺らが攫ってきた餓鬼に該当しそうなやつが……黒髪で白と赤のオッドアイの奴なんてわかりやすいはずなんですが……」
「……ったく、なるほどなぁ」
声を震わせながら事実を正確に口する男の言葉を聞き、ミレイユは急に怒りを鎮めて口を開く。
「あいつが相手なら仕方ねぇな……今回の一件は全員お咎めなしだ。その上で全員に命ずる。最大の警戒心を持ってことに当たれ、厄介なのが紛れ込んできやがった」
「「「う、うすッ!!!」」」
これまでは怒髪天をつく勢いで荒ぶっていたミレイユから急に怒りが消失したことに周りの幹部たちは驚愕し、困惑しながらもこれ以上彼の怒りを買わぬよう何も文句を言わずに各々が慌ただしく動き始める。
「俺らも出るぞ、ロンド」
慌ただしく動き回る周りの幹部たちを横目にミレイユが口を開き、ゆっくりと立ち上がる。
「承知しました……にしてもあの少年ですか」
ミレイユの粗暴な言葉に対してロンドはあくまで紳士的な礼でもって頷く。
「ケケケ、良いじゃねぇか、俺らとやろってか。金色のヴァンパイアさんよぉ」
ミレイユは相貌を禍々しい笑みで染め上げ、久方ぶりの出陣に闘志を滾らせた。
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