第6話
僕が意識を失ってからどれくらいの時が経っただろうか?
「起きて……起きてください」
自分を揺らし、呼びかけてくる少女の声によって僕の意識が徐々に覚醒する。
「……んっ、うぅん……」
「あぁ、良かった」
起き上がってきた僕を前にして自分の隣にいた少女は安堵の息を漏らす。
隣の少女とは、当然襲撃を受けた裏路地で出会った少女のことである。
「……ここは」
僕は状況を確認するため、素早く周りを見渡す。
天井も床も壁もごつごつとした硬い石であり、一つの鉄製の扉も確認することが出来る。
独房かな?そこそこ広いこの空間にいるのは僕と少女だけ。
それに硬い岩で出来た天井を見るに恐らくここは地下であろう。
「ここが、どこかまではわかりませんが……誰が私たちを誘拐したかまではわかります」
現状確認をしていた僕に対して自分の隣にいる少女が口を開き、早速と言わんばかりに確信めいたことを口にする。
「へぇー、それはぜひ聞かせて欲しいな……あぁ、それとね。ここで僕はため口で話すけど許してね。僕は君が誰かなんて知らないし、知らない人間に対して敬った口調を使わない……おそらく、この現状を呼び込んだのは君でしょ?」
僕は目の前にいる少女に対してそう告げる。
目の前にいる少女はどう考えても厄介ごとを抱えるやんごとなき身分のお方……何も知らなかったで押し切れるよう僕は少女にそう話す。
「わかりました。いや、わかったわ……ごめんね、私のせいで巻き込んでしまって」
僕の言葉を受けて口調を和らげた少女は申し訳なさそうに口を開く。
「謝罪は良いよ。まずは情報を。僕はこんなところで死ぬわけにはいかないのでね」
「……えぇ。まず、私たちを攫ったのはアル・レテンの人たちだと思うわ」
アル・レテン。
勘当された貴族・商会の魔法を学んだ人間であったり、魔法が使える上流階級の身でありながら犯罪者に落ちた人間であったり。
表社会を生きられなくなった上流階級の人間が集まって出来た犯罪組織であり、自身の持つ魔法の知識を餌に構成員を増やしている組織である。
上流階級の立場を脅かすほどの勢力にはならないほどの絶妙なラインで組織を維持させるアル・レテンはこの国だけでなく世界各国の王侯貴族、大商人などと繋がりを持っており、普通は行うことの出来ない黒い依頼を彼らから受けることもある。
今回の一件もそれであろう。
「なるほど……もう十分だ」
アル・レテンはゲームにも出てきたし、この世界を生きる僕としても個人的なちょっとした繋がりがある。
そのため、彼らのことは僕も実によく知っている。
「そうか……彼らか」
目の前にいる少女。
実に……そう、実に見覚えのある少女を見据えながら僕は思考を回す。
このイベントは知っている。打てる手は……うん、問題なくあるな。
「ふっ」
恐らくここはハイエンドではなくスラムの中。
住み慣れ、秩序やルールなど何もないここでなら僕は自由だ。
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