第4話

 ノーエンスを抜け、スラム。

 街には一切の店がなく、半壊した建物ばかりが並んでいるこの世の掃きだめ。

 

「ただいま」


 そんな街の中で唯一建物としての形を保ち、僕の魔法によって不届き者が侵入することが出来ないようになっている自分の家へと入る。


「おかえりなさい、お兄様」

 

 家へと帰ってきた僕を義妹であるアスカが出迎えてくれる。

 生まれながらにして通常の手段では治すことの出来ない難病を抱えているアスカ。

 だがそれでも、薬のおかげで病の症状が少しづつ緩和され、最近になってまだ弱くはあるものの、少しずつ体も強くなってきた彼女は自分の両足で力強く立って僕の方に近づいてくる。


「うん。ただいま」

 

 僕は自分へと抱き着いてきたアスカの頭を撫で、再び『ただいま』と口にする。


「問題なく手続きを終わらせることが出来ましたか?」


「うん。問題なく出来たよ」

 

 僕はアスカの言葉に頷く。


「……それなら良かったです。これでお兄様もハイエンドの住人ですね」


「いや、住んでないし住人とは言えないんじゃないか?でも、学園の方で仕事見つけてハイエンドに住めるくらいになりたいね」


「私も、何か力になれると良いのですが……」


「アスカはいてくれるだけで僕の力になるからそのままでも全然良いんだけどね?最近体も良くなって家事とかもしてくれているだろう?これから僕も忙しくなるだろうから、家事をしてくれるだけで嬉しいよ」


「はい!家事も頑張りますね……ということで今日の夕食を作る手伝いをしていいですか?」

 

 僕の言葉に対してアスカが力強く笑顔で頷く。


「良いよって言いたいところだけど、今日はちょっとご飯あるんだよね」


 だが、そんなアスカの意欲に水を差すかのような言葉を僕は告げる……それでもハイエンドの飯なのだ。

 喜んでくれるだろう。


「え?」


「ちょっとノーエンスの方で訳アリの金持ってそうな少女を助けてね。ハイエンドのご飯を持って帰ってきたから一緒に食べよ?」


「……少女」

 

 何故か、アスカの僕を抱きしめる力が強くなる……本当に何故?

 あ、あれ喜んでくれると思ったんだけど。


「アスカ?」


「あっ……いえ、何でもないです。ハイエンドのご飯ですか。楽しみです」

 

 僕に名を呼ばれたアスカは僕へと抱き着く力を弱めてから笑みを浮かべる。


「使っている食材がとんでもなく良いからね。多分すっごく美味しいと思うよ」

 

 僕はそんなアスカと並んで歩き、部屋の中央に置かれている丸いテーブルの前に座る。

 

 そして、自分の影の中に仕舞っていた料理を取り出す。

 影に物を仕舞えるのはヴァンパイア特有の生物的能力であり、その血を引いている僕も使うことが出来た。


「それじゃあ、食べようか」


 机の上に料理を並べ終えた僕は口を開いた。

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