第一章

第1話

 前世では多くの人の憧れであった魔法はこの世界に残酷な影を落とした。

 恵まれた生まれであるが故に魔法を学ぶことが出来た上流階級と、魔法を学ぶことも出来ないその他の平民との間にはどうあがいても埋めようのない格差が出来てしまったのだ。

 

 単純な武力として運用することも、様々な物質を作ることにも、生活を便利にすることにまで使える魔法によって便利で豊かな暮らしを享受する上流階級の人々。

 

 そして、そんな彼らとは対照的に明日食べるものもなくてもはや動くことも出来ずに転がっている老若男女に加えてあたり前のように死体が転がっているようなありふれた普通の街に暮らす一般階級の平民たち。


 こんなクソみたいな世界でフランス革命のような市民革命など望めるはずがなく、上流階級である貴族並びに資本家へと逆らって労働者たちが自分たちの意見を通すことなど不可能だ。

 魔法を持たぬ平民が上流階級に逆らったところで魔法と言う圧倒的な武を前に屈することしかできないだろう。

 

「最悪という言葉すら生ぬるい地獄だよ、本当」

 

 ペストが流行ったときのヨーロッパのような街並みが平常運転という希望もクソもないような平民が暮らす街と貴族に商人、所謂上流階級が住む高級住宅街を隔てる壁を正式な手続きを行って超えた僕は煌びやかな高級住宅街を前に目を細めながらぼそりと呟く。


「さてっと……学園はどっちかな?」

 

 ヴァンパイア。

 弱点は多いものの不老の怪物であり、人族などとは比べ物にならないほどの力を生物的に持ち合わせるヴァンパイアと人のハーフたるダンピールである僕は当然生まれながらの強者である。

 ある程度の戦い方も学んでいるし、平均的な貴族の子供よりも遥かに強いだろう。


「ふんふんふーん」


 そんな僕は国中から将来有望な若者を集めて教育を施す国立の学園、アステル学園へと入学するよう脅さ……ごほんっ。招待されていた。

 基本的には国中の貴族の子供が入学することになるアステル学園は当然王都の高級住宅街の一角にある。

 

 普段は王都でありながら王都扱いされていない貧民街に暮らしている僕は入学手続きを行うために高級住宅街へとやってきているのだ。


「……ここかな?」

 

 体内より魔力を放射し、ソナーのようにして街の様子を把握している僕は多くの学生らしき子供が集まっている一つの建物の前に足を止める。


「……デカすぎてどこで受付すれば良いのかわからないんですけど?」

 

 僕はあまりにも巨大すぎる建物を前にして困惑しながら口を開いたのだった。

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