世界最強の悪役の破滅フラグのへし折り方~病に罹っている義妹の治療費を稼ぐのに忙しいので物語の黒幕として暗躍している余裕はありません!~

リヒト

プロローグ

プロローグ

『この世界は残酷だ』

 

 魔法によって世界を解き明かし、文明を発展させ、優れた文明を築き始める人類。

 だが、残酷なことに発展を続ける文明の暖かさを享受できるのは生まれながらの勝ち組である全人類のほんの一握り。

 高度に洗練された学問の元に成り立ち、勉強出来る環境の中にいるものしか使えない魔法を土台とするその魔法文明は、誰でも使える科学文明とは違って圧倒的な格差を生み続けていた。


「本当にクソみたいな世界だよ、全く」

 

 闇夜を明るく照らす文明の光。

 それが当たる街から少し外れたスラム街を歩く僕は道端に転がっている痩せこけた幾つもの遺体に眉を顰めながら先へ先へと進んでいく。


「ただいま」


 周りの家に比べて幾らかマシな家へと入った僕は腕の一振りで魔法を発動、僅かな月明かりに照らされるだけであった家を明るく変える。


「あっ……おかえりなさい、お兄様」


「うん、ただいま」

 

 自分を出迎えてくれた少女。

 真っ白の肌に真っ白な髪、そして、白いキャンパスの上で紅い色。

 大きく美しい真紅の瞳が色濃く鮮やかに印象として残る小さな美少女へと僕は優しく声をかける。


「はい、今日の分の薬。この後、僕が夕食作るから、その後に飲んでね」


「うん、わかった」

 

 僕の義妹である少女、アスカは僕の言葉を素直に頷く。


「……いつも、迷惑をかけてすまないね」


「いや、全然大丈夫だよ」

 

 簡素なキッチンの前に立った僕に声をかけてきた女性。

 病を患って床についているアスカの母であり、僕の義母である女性へと僕は声を返す。


「私の体が、もう少し丈夫だったら良いんだけど……」


「二人の分まで僕の体は強いから大丈夫だよ……これでも僕は無限の命を持つとされるヴァンパイアと人のハーフであるダンピールだからね」

 

 僕は言葉に絶対の力を込めて告げる。

 

「元気も力も有り余っているから気にしなくて良いよ」

 

 美しいグラフィックに壮大で完成度の高いBGMの数々、自由度が高くて魅力的な探索と戦闘に、個性豊かなキャラクターたちが織り成す完成度の高いストーリーで一世を風靡したオープンワールドRPG『孤狼の摩天楼』。

 

 そんな孤狼の摩天楼において黒幕として君臨し、数々の災厄を巻き起こした作中最悪にしてキャラ人気最高の男であるロマルス。

 鳥の濡れ羽毛のように漆黒の髪に血のように鮮血な輝きを持つ深紅の右目。

 鮮やかな右目とは対照的に色が抜け落ち、どこか不気味な哀愁と深淵を感じさせる白い瞳たる左目を持った男。


「……ふぅ」

 

 キッチンに立つ僕の瞳は鉄製のシンクに反射して映っている紅と白のオッドアイに黒髪を持つゾッとするほどに美しく、まるで悪魔のように端正な顔立ちの少年の姿を捉える。


「自分の好きだったゲームの裏側。クソみたいな裏側なんて見たくなかったなぁ」

 

 かつては物資に囲まれる安全な楽園のような日本で高校生として過ごしていた頃の僕の前世の平凡だった顔つきとはまるで違う。

 孤狼の摩天楼に出てくるロマルスそのものであり、今や自分のものとなっている顔を撫でながら僕はぼそりと呟いた。

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