第20話 花色彩堂
ある意味、想像通りの外観の本屋だった
二階建ての古い木造住宅の一階にある店
二階はおそらく住居と見受けられる
《花色彩堂》と書かれた錆び付いた看板が取り付けられているだけの質素な作り
近くには、廃墟のようなこの街にしては大きな精神科の病院と
これまた、この街にしては大きい廃工場があり
この本屋を形容するには
退廃的な町の図書館と言う言葉がぴたりと当てはまっている気がした
店の曇ったガラス扉が少しだけ開いている
軍服を着た男と僕は店の前まで行くと
僕はガラス扉の隙間から、店の中に向かって呼びかけた
「すみません!誰かいませんか?」
すると、奥の方からパタパタとスリッパの音がする
この汚ならしい外観からして、気味の悪い妖怪みたいな男が出てくるに違いない
僕は心構えをしておく事にした
そそくさと店の主であろう人間が出てきた
「あら、お客さん?いらっしゃい」
そう言って微笑みかる主を見て、僕はぎょっとした
美しい黒髪を後ろに結い上げ、色白の肌に小さく赤い唇
二重瞼で流し目の美しい女性が出てきたからだ
僕があまりの差異に呆然と立ち尽くしていると
軍服を着た男は
「おい!若造!ここまで送ってやったんだ、帰りは知らんぞ!」
と言い残し、また足を引きずりながら帰っていった
「あら、あの方もう帰っちゃうのね」
照れからか、緊張からか、何も言えず、ただ立ち尽くす僕に店の主は言った
「道案内してもらっただけなので」
「そう、なら君が何かお探しで?」
こんな美人に恋愛のノウハウを知るための本を探しに来たとは言えるまい
「あっいや、ただ何か本を……」
口ごもる僕に優しく投げかける
「見るだけ見てって、あまり子供向けではないけど、色んな本置いてるから」
美しい店の主は、ガラス扉を大きく開け、僕に手招きしながら中に入っていった
僕は妙な不安にさいなまれながらも、後に続いて入店した
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