第19話 兵隊さん

足が不自由なはずなのに、歩くスピードは僕よりも早かった

先ほどいた街が見えなくなったくらいで

急に立ち止まって振り返り、僕に向かってこう言った

「おい!若造!戦争にも行ったことのない若造が、俺に道案内させるとは何事かわかっとるか!?」

「すみません、でも僕が頼んだわけでは……」

僕の返答に、あからさまに腹を立てる

「おい!今なんと言ったか!?」


そう言うと、僕の胸ぐらを掴み、激しい剣幕で捲し立てる

「ガキだからと黙っていたが、お前のような弱い虫が国を駄目にするんだ!なんだその西洋かぶれした服は!?なんだその細い体は!?」

何故そこまで言われないといけないのか

そう思ったが、ここで茶々を入れれば

面倒な事になるに決まっている

僕は静かに耳を傾けた

「熱き血潮を撒き散らし、若き魂を散らしてこそ真の男だ!俺の仲間はな、皆、志の中に散っていった!」

と言う言葉をきっかけに、声色が変わり、涙目になった

「なのに俺は……生きて帰った……土産もない……残ったのはボロボロの身だけ……」

そして軍服を着た男は、糸が切れたかのように崩れ落ちた


僕は、自分のグシャグシャになったシャツの襟を整える

「大丈夫ですか?」

「大丈夫に決まっているだろ、俺は男だ」

すぐに表情を変え、立ち上がり、また僕に背を向け歩き始めた

「おい、早くついてこい」

僕は、気の狂った男の逆鱗に触れぬように

静かに後を追った

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